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『過ぎ去った日々』


若かった頃の自分に思いを馳せる。
友達と共に過ごした日々。恋心を打ち明けた日。
笑い合って帰っていた。

もう一度、あの日々を過ごしたい。
寝台の上で微睡む。
揺れる感覚は、母の腕の中にいるようだった。

「おばあちゃん!」元気の良い声で目が覚めた。
まだ眠気が残っているが、目の前の孫の顔は何かを話したいようで、ずっときらきらしている。

「あのね、今日はね____」
話し始めたが、私の耳にはあまり届いていなかった。
ただ、嗚呼、私はもう「おばあちゃん」なんだ。
と、あたりまえの事を思っていた。

思えば若い頃も日々をぼうっと過ごした。
なんとなく友達を作って、なんとなく好きな人ができて。なんとなく結婚した。

過ぎ去った日々は、こんなにも長かったのだ。
ふいに、涙が零れた。なぜ、もっとちゃんと生きようと思わなかったのか。
病に蝕まれ、もう歩くことすらも叶わない、こんな体になる前に。

しかし、同時にこんな事も思った。私があの人と結婚しなければ、今目の前にいる子は生まれていない。
もし、違う人を選んでいたら、子も、孫も、生まれていなかったかもしれないのだ。

私がしてきた選択はお世辞にも正解とは言えないだろう。
だけど、私がいなければ生まれない命が目の前にあった。

それを、心底愛しいと思った。

3/9/2024, 10:22:02 PM