過眠症の中で生きる

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私にはとても大切な人がいる。
その人はとても明るくて、少し子供っぽかった
出会ったのはとても寒い冬の日。
アパートで。


あぁ寒っ!!
確かあの日はアラームが鳴る前に寒くて起きた
珍しい事だったからよく覚えている
その後ごみ捨てに行ったはずだ
そこで出会ったんだっけな

初めて会った時あの人はごみ捨て場で寝ていた。

こんな寒い日にごみ捨て場で寝るなんて、凍死してしまう。
焦った
見ず知らずの人だし危険だ。
病院に連れてく?引きずるにも限界はある。
じゃあ他の人を呼ぶ?
ダメだ、こんな早朝に起きてる人は居ない。
仕方がない、家に入れよう。

迷って迷って決めた。
人助けなんて面倒な事、したくなかったのに。
急いで暖房やストーブを付ける。
部屋が急に暖かくなる。
少し頭痛がする。
考えたら、救急車でも呼べば良かったのかな。 と考える。
まぁもう入れちゃったし。
いつもみたいに考えるのをやめる

あの人は一向に起きない。
警察でも呼ぼうかと思った矢先、声がした。

『あっつ』
驚いた。
振り向くと真っ黒な瞳がこちらを見ている
惹かれはしない
普通の見た目、普通の声。
特徴が掴めない
いや、唯一掴める所を見つけた。
焦っていて気づかなかったが、ピアスをしている。
1つや2つじゃない
何個も付けていてキラキラと光に反射してより目立っている。

口を開けて見つめていると、あの人は言った。
『誰』
少しキツイ印象だ。
とにかく早く出て行ってもらおう。
ここの部屋の住民です。
凍死しそうだったので部屋に連れて来ました。
それだけ言った。それで良いだろう。
これ以上は必要無い。

あの人は私に向かって言う
『そう。ありがとう、住んでも良い?』


は?
意味が分からなかった。
『ちょっとの間だけ!!お願い!!』
あの人は一向に引かない。
めんどくさいなぁと思いながら、まぁ良いか。と
また考えるのをやめた
いいですよ、少しだけですけど。
あの人は満面の笑みで話す。
『ありがとう!!お風呂借りるね!!』
凄い神経だ。

1週間たった日、あの人は居なくなった。
訳では無く、まだ居る。
慣れてきてもう一緒に買い物も行く。
今日も買い物に来ていた。
『ねぇお菓子買っていい?』
子供見たいな事を言う
3つだけなら。
いつもみたいに返事をする
『よし、帰ろ!!』
買い物が終わると、袋を毎回持たないで走り出すあの人は珍しく袋を持ってくれた。
走り出すのは変わらないけど。


信号の無い横断歩道。
氷が厚く貼っている。
滑りやすい。
車が走ってくる
あ、間に合わない
轢かれる。
まずい

少しして鈍い音がその場に響く。
買ったお菓子が袋から飛び出る
あれ?4つもある
3つって言ったのに
時がゆっくり流れているみたいに思えた
本当は一瞬だったのに


あの日から明るいあの人は話さなくなった。
ずっと真っ白なベットで寝ている。
打ち所が悪かったそうだ
毎度思い出す記憶。
鮮明に覚えている。
明るくて少し子供っぽいあの人
愛おしいと思えた
ただそれだけだったけど、私には大切に想える。
1週間。短い期間のはずなのに
もう6ヶ月もたった
半年だ。
私はもうずっと記憶に縋っている。


人助けなんか面倒な事しなきゃ良かったのに。
私は今日もあの人に会いに行きます。

耳元でキラキラと光るピアスを付けて。

―過ぎた日を想う―


10/6/2023, 11:45:46 AM