仕事納めの日。
いつも通り、定時で仕事を終えて帰宅する途中……それはいた。
「あ、やっぱり定時だった!お疲れ様!」
女子高生のストーカーだ。何度追い払っても撒いてもめげずに来る根性だけはあると認めるが、だからと言って交際する気には到底なれない。
こんな雪の降る日にまで待ち伏せてるとは思わず油断した。
「頭がおかしいようだな、君は。どれだけこの雪の中で傘も差さずに待っていた?」
頭や肩には雪が積もり始めている。そして彼女は何を考えてるのか、俺の話をにやにやしながら聞いている。やはり警察に相談すべきか……
「心配してもらっちゃった……嬉しい」
胸はときめかない。悪寒ならする。顔を赤くして喜ぶ姿は恋する乙女なのだろうか。理解不能の生物にしか見えない。
赤い、顔──?
よく見ると、赤面しているのではなく、寒すぎて赤くなっているような。彼女は手ぶくろもしておらず、両手を擦り合わせて寒さを凌いでいるようだった。
急に、自分のせいで彼女が体調不良になったらどうするのか……そんなことが頭をよぎる。
突き放して警察に相談すればこんなことにはならなかったのではないか?ここまで彼女を自由にさせていた責任があるのではないか?
思考が落ちていく。
そして、考えとは裏腹に俺は最悪な行動に出てしまう。
「貸してやる」
ストーカーに手ぶくろを渡した。
「え?」
「どうせまた待ち伏せるんだろう?その時に返せ」
「でも……」
「いいから」
「今日が仕事納めでしょ?返すの来年になっちゃう……。また来年、会ってくれるの?」
「あ」
そうだ、忘れていた。今日で年内の仕事は終わりだった。何故彼女が仕事納めの日を知っているかは知らないが、また会うとなると一週間後くらいになってしまう。
「ありがとう!大切に使うね!」
「待て、今のはその」
「マフラーも貸してくれる?」
「断る!」
とんでもないことをしてしまったと思ってももう遅い。彼女は満面の笑みで手ぶくろをはめて走り出した。
「またね!大好きー!」
来年もまたストーカーされることが決定した瞬間だった──
【手ぶくろ】
12/27/2023, 12:33:12 PM