『時よ止まれ』2023.09.19
「Verweile doch,du,bist so schoen」
「へー、アナタでもそんなロマンチックな言葉言えるんですね」
いい雰囲気だったので、そんなシャレた事を言っても彼は本気としてとらえない。
それはそうかもしれない。世間が考えるような甘酸っぱい関係でない俺たちに、愛の言葉など不要だ。
「お返事は聞かせてくれねぇの?」
「どうして」
「どうしてって……一応、付き合ってっからなぁ」
改めて聞かれると困るが、なにかしらの良い反応は欲しかった。
「ちゅーか、よくわかったね」
「分かりますよ」
外国語に明るいのは少し意外だった。しかし、彼の友人に関西人の英国人がいるから、別に意外ではないのかもしれない。
「読んだことありますから」
俺の言葉というより、その言葉の載っている本のことを指しているようだった。
「先輩に勧められた本の中にあったんです」
「えっ……そっちを勧められたわけ?」
変わった先輩だ。普通は和訳したものを勧めるはずなのに。
「アナタはなにをもってそんな言葉を吐いたんです? 一番縁遠そうなのに」
「失礼だな。俺ぐらいになると他国の著書の知識も必要になってくんの!」
「ウザっ」
「ウザくない!」
鮮やかな紫の彼は、心底嫌そうに吐き捨てる。反論すると、余計に眉間のシワが深くなり表情も険しくなった。
彼に言った言葉は実は本心だ。時さえ止まれば、永遠に今の関係のままいられる。
彼の美しさもそのままに。
だから、願わずにはいられない。
――時よ止まれ、キミは美しい。
9/19/2023, 1:10:33 PM