あの子の匂いがした。
俺は今、とある高層ビルの最上階にいる。
何故、と聞かれると思うが、まあ聞いて欲しい。
数年前、俺には彼女がいた。
その彼女は五年ほど付き合っていて、よく俺の家に泊まりにきていた。
だが、その彼女が急に泊まりに来なくなった。
俺がその彼女の浮気を疑っていた頃、
彼女が既婚者だったということが判明した。
判明した原因は、その彼女の夫を名乗る人物が弁護士と共に家を訪ねてきたからだ。
彼女が既婚者だったと知らなかった俺にとっては目から鱗のようなことだったが、相手方からするとよくあることだったらしい。
手慣れた様子で弁護士との話を進めていた彼女の夫は、
「俺には慰謝料等を請求しないが、その代わり裁判で証言してほしい。」
と言ってきた。
ショックで殆ど放心状態だった俺は、証言台に立つ約束をし、一度帰ってもらった。
その後数回の打ち合わせを挟み、俺は証言台に立った。
その頃には、もう既に彼女に対して怒りしか湧いていなかったので、
救いを求めて俺に対して何かを叫ぶ彼女は無視して、証言を続けて、彼女から慰謝料をもらうことになった。
その出来事から数年後、俺はここ最近の不景気によるリストラ祭りの被害を受け、会社を辞めていた。
幸いなのかどうかはわからないが、数年前に彼女から搾り取った金があったので、今は就職活動しながら細々と暮らしている。
ある日、就職活動の帰り道に、街中にあるには不自然なものを見つけた。
かなりの長さの紐?だ。
その紐は赤い色をしており、近くの高層ビルの最上階にまで続いているようだ。
何かの訓練だろうか?そう思ったが、本当にそうなら誰かがこの場所を見ていなければいけないのでは無いかと思ったので、除外した。
まあその時はそんなに気にしていなかった。
8/31/2023, 4:23:44 AM