【あじさい】
赤紫陽花の下には、屍体が埋まっている。私は埋まるなら紫陽花の下がいいなあ。
雨が降りしきる窓際で、日に日に細くなっていった君は、不意に、そんなことを口走った。
「桜じゃなくて?」
「あんな重い木に押しつぶされたくないもん」
「紫陽花だって重いよ」
「あは、そうかもね」
でもさ。紫陽花なら、桜と違って見つけてくれるでしょう?わかりやすくていいじゃん。
雨は今も降っていた。僕は、自分でも何をしているのだろうと思いながら、スコップで紫陽花の根を掘り返していた。君は馬鹿だと笑うかもしれない。今の僕を見て呆れるかもしれない。
本当は、そんなこと言わないでと言いたかった。痛々しい笑顔を見たくなかった。無理して欲しかった。でも、無理しないで欲しかった。ただ、ごめん。会いたい。
結局君はいなかった。掘り返された土と泥のむせかえるような匂いが、ぐらぐらしている頭を醒めさせた。乾いた雨音が、僕の肩をしきりに叩く。水たまりに映った僕の顔はまるで死人のようで、ああ、埋められたのは僕の方だったのかもしれない、と思った。
君は僕の血を吸って、今日も僕の中で生きている。
6/13/2024, 1:39:14 PM