「あなたがいたから、私は今生きてるの。あなたは私の希望で神様で命でもある。これからも頑張ってね。」
「ありがとうございます。」
あまりにも重い言葉に、当たり前に笑顔で返す。
すると、彼女はとても嬉しそうに笑って、手を振って去っていく。
それに振り返すと、小さく悲鳴が上がった。
ああ、馬鹿らしい。
そんなことを思いながら、次にやってくる人に対応する。もちろん笑顔だ。研究しつくした、最高の笑顔。これでいろんな人を騙してきた。わたしの持つ武器だ。
「大好き、本当に。今日、始発の新幹線に乗ってきたの。本当に会いたくって。」
「ありがとうございます。」
少し高く甘く、それでもくどくはない声。これも研究を重ねた結果生まれたものだ。
目を合わせて相槌を打ちながら感謝の言葉を繰り返す。
こんな機械的な仕事がしたくて、女優になったわけじゃないのに。握手会なんてアイドルみたいな馬鹿っぽいことを提案した社長の顔を黒く塗り潰す。そういえば、写真集の発売もあいつが言い出したことだった。
ため息を吐きたくなったけれど、わたしは相変わらず笑顔を浮かべて馬鹿の一つ覚えのように「ありがとうございます」を繰り返している。
ああ、本当に。
大好きだとか使い古された言葉も、自分を人に支えさせるような言葉も、全部耳を通り抜けて、心を滑ってどこかへ落ちていく。
もう疲れた。それでもわたしは笑顔で居続ける。
今日はアイスクリームを一年ぶりに食べよう。
そう決めて、それでも誰にも悟らせないように変わらぬ笑顔で知らない人の手を握る。
「ありがとうございます。」
6/20/2023, 12:52:57 PM