ザーザーと雨が降る図書館からの帰り道。
私の鼓動は雨音が聴こえないほどに高鳴っていた。
学校の前を通り過ぎるとき、校舎の入り口で部活帰りの彼が手ぶらで空を見上げて困ったような表情をしているのを見つけた。
私は数歩ほど道を引き返して予行練習を始める。
『良かったら私の傘に入る?』
よし、大丈夫。
たった一言伝えれば良いだけだ。
彼をじっと見つめながら近づく。
誤って水溜りに思いっきり足を踏み入れてしまったが、そんなことは意識の外だった。
しかし、近づいていると不意に校舎の入り口から私の友人が姿を現した。
彼女は折り畳み傘を彼に見せびらかす様に2本見せつけると、そのうちの1本を彼に手渡して談笑を始めた。
高鳴っていた胸にズキリとした痛みを感じる。
………私にもっと勇気があればなぁ。
ぼやけた視界、水溜りで濡れた靴を見つめて独り、帰り路に着く。
大きな傘の中、大きな秘密には雨が降っていた。
〜傘の中の秘密〜
6/3/2025, 3:14:23 AM