18
「寒いッッッ!!!!!!」
大きく山のように丸く膨らんだ毛布から渾身の一声が聞こえた。
「おい、そろそろ起きろ。せっかくの休日が台無しになるぞ」
ゆらゆらと湯気が立ち昇る珈琲を一口飲みながらそう声を掛けてみるものの、毛布山はモソモソと動いたのみで、一向に中身が出てくる気配は無い。
俺はマグカップをテーブルの上に置くと、一度小さく溜息を吐きながら毛布の山へと近付いた。
「―――ほう。俺を無視するとは良い度胸だ」
俺は一言そう言うと、毛布山めがけて思い切り回し蹴りをお見舞いした。
山の奥から「ぐえっ」という奇声が発せられる。
「痛ェじゃねーか!何すんだよ!!」
そう叫びながらようやく出てきた大男は、肩程まである黒髪を掻き上げながら俺を仰ぎ見た。
俺は「ふん」と小さく毒づき、男の額に人差し指を立てる。
「翔(かける)がいつまでも起きないからだろう。先週は風邪のせいで何もできなかったからな。今日こそはやるぞ」
「やるぞ…って、まさか……七星(ななせ)お前…」
翔がゴクリ、と喉を鳴らしながら毛布を退かし立ち上がる。
俺は縦に頷き、腰に手を当てた。
「そうだ。今日こそはやるぞ―――年末最後の禊…大掃除を!!!!」
―――
「嫌だ…やりたくねーよう…なんで大掃除と冬はセットみたいになってんだよ…寒いんだから冬と一緒にじゃなくてもいいじゃねーか…春秋くらいが丁度いいのに…」
「文句を言うな。やらなければ終わらないだろう。念の為言っておくが大掃除が終わらなければ他の全てはお預けだからな」
二人で掃除を分担しながらも、この期に及んでまだ及び腰の翔に俺はちくりと一言刺しておく。
「何だと…!?全部、お預け……!?」
其れは困ると言わんばかりに翔は窓を必死に拭き始めた。
「…それにしても」
俺は塵取りに溜まった埃を見、溜息を吐いた。
「一年でこんなに汚れが溜まるんだな」
「そう、だな」
キュッキュッと心地良い音を立てながら翔は答えた。
「ま、でもそれだけこの家で俺と七星が過ごした色んな想い出も沢山あるって事だな!!」
「…っ!」
俺は己の顔が熱くなるのを感じて思わず下を向いた。
「お?七星、お前照れてるのか?」
「…っ!煩い!さっさと終わらせるぞ」
今年の冬は、君と一緒に。
12/18/2024, 10:46:48 PM