雨に佇む
にわかに雨が降ってきて、僕は近くの店の軒下に退避した。
はー。傘、持ってきてないよ。
すぐ止むといいけど……。
思わぬ所で足止めをくらい、僕は恨みがましく空を睨んだ。
白瀬君の家に遊びに行く予定だったんだ。
旅行のお土産も渡したいし、前あったおもしろかったことも話したいし。
白瀬君は今年で中二、僕は高一。去年までは学校で毎日会えたのに、今年は一週間に一度、予定が合わなかったらそれ以上会えない。
このまま疎遠になるのは嫌だから、僕はなるべく電話したりメールしたりしているんだけど、白瀬君は僕のことをどう思っているのかな。
白瀬君からのメールはいつも簡単なもの。
そういう性格だって分かっていてもなんとなく不安になる。
こんな暗い思考になるのも、このうっとうしい雨のせいだ。
まだ止まないの?もう、走ろうかな?結構降ってるけど。もう一回空を見上げて決心をつけかけると、とつぜん何か音がした。一瞬驚いて、携帯か、とひと安心する。
ちょっとの期待をしながら携帯を開く。白瀬君ですように、そんなわけないけど……。
しかし、件名なし、差出人、白瀬壮。
思わず携帯を握りしめる。
そろそろと画面をスクロールして内容を見ると、偶然ですね、どこに行くんですか?と書かれていた。
「え?なになに?どういうこと」
辺りを見回すが誰もいない。
「いたずらメールかなあ」
ぽん、と肩に手が置かれた。
心臓が収縮する。恐る恐る振り向くと、白瀬君だった。
「白瀬君!」
「お久しぶりです、先輩。雨宿りですか?」
「うん、実は服部君ちに行こうと思ってたんだけどね、降られちゃった。白瀬君は?」
「僕、この本屋好きなんです。ドアの外に先輩が居たので驚きましたよ」
「ああ、ほんとだ、ここ本屋さんだ」
ぜんぜん気づいていなかった。
「雨が降っていて良かったですね、すれ違うところでした」
「そうだね、運命だね」
白瀬君は僕の台詞は無視して、僕を自動ドアの中に引っ張っていく。
「先輩も一緒に本屋を回りましょう。ー先生の新刊が出ていましたよ」
「へえ、じゃあ買っていこうかな」
本はあんまり読まないのだけど、白瀬君の好きな作家さんなら読んでみようかな。いつも無表情の彼にしては楽しそうな横顔をながめる。
雨が降らなかったらこんなことなかったから、良かったあ。
(佇んでる?)
8/28/2024, 10:01:47 AM