たぬたぬちゃがま

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女の子が泣いている。
男の子が必死になだめているが、目から溢れる涙は止まることなく、女の子の手だけではなく頬、服、地面を濡らしていた。

「また会えるから、泣かないで?」
「いや。そう言ってきっと会えないんだもの。」
彼のポケットに入っていたハンカチは涙を吸って使い物にならなくなっている。それでも彼はそれで私の涙を拭い続けた。
「いつもそう。私が泣くとあなたは嘘つきになるの。」
「……ごめんね。」
傷ついたような顔。どうしてそんな顔をするんだろう、と思った。泣いているのは私なのに。毎回嘘をつかれているのは私なのに。
「きっとあなたは迎えに来ないわ。嘘つきだもの。」
傷つけたいわけじゃないのに、口から出るのは悪態ばかり。そんな自分に嫌気がさした。
「……迎えに、行くから。」
「え?」
彼はキョトンとした顔で彼女の顔をみつめた。
「あなたが来ないなら、私があなたを見つける。迎えに行く。嫌って言っても攫うから。」
「……まるで悪役の台詞だね。」
彼はまるで子どもをあやすかのように頭を撫でる。歳はそんなに離れていないのに。
「そう、悪役よ。すべてを手に入れるためならなんでもする悪役王子。あなたは囚われのお姫様になるの、捕まえたら絶対に離さないから。」
「……僕が姫かぁ。」
クックッと笑う彼は、きっと本気にしていない。その油断が命取りになると知るのはいつだろうか。
「絶対見つけるから。」
「はいはい、待ってるね。」
嘘つき姫はまた嘘をつく。
いつかはわからない。けど絶対に、その嘘を本当にしよう。
私は決意を込めて彼の服に涙をこすりつけた。

  
【またいつか】

7/23/2025, 9:12:40 AM