光がある。深淵を照らしだす唯一のもの、
我らの複眼には明るすぎるがゆえに走性たらしめるもの。翅を揺らす、羽ばたきは一つの流動を生み出して、早る心を顕にしているようだった。もっと近く、もっと近くで。
…バチンッ!
変な音がして思わず上を見つめる。丸い蛍光電灯が唯一の光としてそこにある。
その周りを、忙しなく飛ぶものたち、近所はショッピングモールがあるくらいには発展している。だが、裏山も近いので、ここにはよく虫が集まってくる。特に今は深夜帯、大抵の人が寝静まり、残っているものは、残業に追われる社員の灯すものくらいだ。
まあ、私もその一人であったが。
ピンポーン、10階です
安っぽい音に機械的な聞き慣れた声、身体はもうくたくたなのですぐに出る。
ふと、床に落ちた小さな虫に気づいた。
きっと、光に釣られて感電死したのだろう。
まあよくあることだ。
ところで人は一日に何人死んでいるのだろうか。
「変わらないな」
独り言は空を切り、誰もいない廊下に虚しく響いた。
『何気ないふり』
3/31/2023, 11:20:14 AM