いぐあな

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300字小説

夢ふたたび

 ライトを浴びて舞台に立つ同級生達が涙で歪む。
 合格の狭き門をくぐり抜け、厳しい校則の中、必死に練習を重ねてきた。だが、私は結局、彼女達の後ろを踊る、群舞の一人としてしか憧れの舞台には立てなかった。
 万雷の拍手の中、緞帳が下りる。
「さようなら」
 一言呟き、私は華やかな世界に背を向けた。

「……あったぁ!!」
 桜の下、娘の声が響く。
 あれから数十年。合格の狭き門を今度は娘がくぐり抜けた。
 私の夢を彼女に託す、なんて無粋なことはしない。でも、忘れたくても忘れられない記憶で、彼女に何かあったとき手を差し伸べることが出来るだろう。
「お母さん! 私、頑張るから!」
 意気込む娘の満面の笑顔に、私は小さく頷いて、笑みを返した。

お題「忘れたくても忘れられない」

10/17/2023, 11:25:13 AM