ゆかぽんたす

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もう嫌だ。というか、無理だ。
こんなことになるならもういっそのこと海の底に沈みたいくらいだ。それくらい、今回のことは僕の中で受け入れ難かった。
10年間片想いしていた彼女が結婚することになったのだ。相手は、僕の弟。

おめでとうお幸せに。定例的なお祝いの言葉すら出ないほど僕は驚いた。だって、なんだって君の生涯の相手が僕の弟なんだよ。まぁ僕も僕で、よく10年間も思い続けたもんだとは思うが。それにしたって身内とあの子が結婚。つまりあの子は僕の義妹になる。嫌だ、激しく嫌だ。これからは“お義兄さん”なんて呼ばれてしまうのだろうか。それを想像しただけで頭痛を呼び起こしそうになる。
でもこれで、ようやく10年にも渡った僕の仄かな恋物語は幕を閉じるというわけだ。結局、受身の姿勢じゃいつになっても報われないんだということがよく分かったよ。そうだよな、弟は僕に比べてずっと肉食系で社交的だ。そういう男が選ばれるということなのか。それが夜の中の仕組みなのか。
「はあ……」
溜息虚しく、何かしようと思いとりあえず散らかってる部屋の片付けをすることにした。僕が、弟よりもう少し饒舌だったら。あと少し背が高かったら。未来は変わっていたのだろうか。そんなことを考えても何も意味ないけど。でもたしかに、彼女のことを好きだったから。これまでの人生の中でTOP3に間違いなく入る衝撃のデカさだ。目眩がまだ収まらない。ゆるゆると立ち上がり鏡の前に立つ。情けない顔の僕がそこにいた。
「失恋って、幾つになっても辛いもんなんだな」
鏡の向こうの僕は今にも泣きそうだった。世界一惨めで不細工な僕だった。

1/21/2024, 9:10:08 AM