NoName

Open App

「やりたいこと」

緊急事態発生。妻と長女が高熱を出して寝込んだ。雫は幼稚園から帰ったときには様子がおかしかったそうで、昨日小児科にかかって薬をもらってきてくれた。問題は妻だ。昨日から無理してたんだろうな。もっと早く気づいてあげればよかった。

「大丈夫、寝てれば治るよ。雫は私が見てるから、あとの二人お願い」

6ヶ月の爽はベビーベッドに寝かせた。ミルクを飲んだばかりだから、しばらくは大人しくしてくれるだろう。問題は澪だ。ん?待てよ、これはチャンスじゃないか?澪と二人で遊ぶなんて、なかなかないぞ。

「澪、なにがしたい?何でもいいぞ」
「ママとおままごとする」
「ママはお熱あるからな。他のことでいいか?」
「澪とプラレールする」
「澪もお熱だ。他には?」
「爽ちゃんとお散歩する」
「そうか、お散歩行くか」

ん、なぜだ?
なぜ「パパとお散歩」と言わない?
まあ、いいか。とりあえず行こう。
爽を抱っこして澪の手を取って家を出た。少しずつ夏が近づいてくるな。曇っていてそれほど日差しはないが、空気が湿っている。

「爽ちゃん」
澪が抱っこひもから出ている爽の小さな手をつかんだ。公園の広い芝生の上で爽を下ろして座らせた。手をばたばたさせて芝生にさわっている。澪が隣に座って一緒にばたばたすると、爽が喜んできゃっきゃと笑う。

楽しそうだ。でも、澪よ、もっとわがまま言っていいんだぞ。お姉ちゃんと弟にはさまれて、いつも我慢してるんだろう?

「爽、何でもいい、やりたいことあるか?」
「パパ抱っこ」
そう、それでいい。
「おいで」
やっとパパのところに来てくれた。
ぎゅうっと抱きしめて、そのまま寝転んだ。
爽の手が髪にあたる。澪が腹の上に乗ったまま抱きついてくる。

雲が流れていく。もっと甘えていいんだからな。そっと澪の頭をなでる。

6/10/2024, 10:51:10 AM