【大好きな君に】
「大好きな君に」なんて書かれた紙を、ボーッと見つめて立ち尽くす。
可哀想に、と思った。
この人がこの手紙を送った『大好きな君』なんてどこにも存在しないのに。送り主は哀れな事に虚像を只管愛し続けているというのだ。
でも、全部私のせい。
どうにか人になりきろうと『大好きな君』を演じ続けて、送り主を騙した、私のせいだ。
もちろん、応える気は無い。私を愛せる人間なんて、存在しないのだから。
ああ、これは決して悲しい事じゃない。誰も私を知らないというだけ、むしろ素晴らしい事ではないか。
拒絶され毎日後ろ指を指されて生きていく必要が無いというだけの事が、私には充分過ぎる程の幸せだった。
早い内に、手紙の返事を書こう。
『大好きな君』を演じながら。
3/5/2024, 9:56:34 AM