一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・一人飯 〜行列の二人・1〜

 人気のおばんざいビュッフェ店の行列に並ぶこと30分。まだ順番は回ってこない。
 私の前には、高校生らしき男の子が二人で並んでいる。少年と青年を足して2で割って、ちょっと大人にした感じの二人だ。
 その一人が急に言った。
「では一句。秋深し 心の友より 飯の友」
 彼の声は落ち着きと不思議な力強さに溢れ、玲瓏と周囲に響いた。 
 なるほど、おばんざいが山と並ぶビュッフェを前にして、食い気に一本の芯を感じる。なんと正直な一句だろう。
 ふむふむと私と同じように居並ぶ人たちも聞き入っている。
 そんな中、彼の友人が呟いた。
「じゃあ、俺、帰っていい?」
「ごめん! ウソ! 帰らないで!」
 大人びた声の説得力は何処へやら。焦りに声を裏返らせた彼は立て続けに言った。「一人飯ムリ! あっ、そうだ! えっと……、秋深し、心の友とぉ、飯の友! どう?」 
 ん? 彼の芯の通った部分はどこに行った?
「マジで受けとんな。ここまで並んで、今さら帰らねぇよ。腹減ってるし」
 周囲がいっぺんにホッとした。何故か広がる見守りの連帯感。
「――次、お並びの〜〜」
 お店の案内が告げられ、列が進んだ。二人の少年も進んでゆく。
 最近は一人飯が多いけど、今度は友だちを誘おうかな。
 友だち同士も楽しいもんね、と二人の背中を見守りながら、私も彼らのあとに続いた。

テーマ; 友達

10/26/2024, 5:18:00 AM