むかしむかし、あるところ。
魔王に支配された王国と、アクを倒すべく立ち上がった勇者達がおりました。
山越え谷越えアドベンチャー
魔物を倒して勝利の美酒
仲間を信じ命を預けそんな日々ももう終わり。
「悪しき魔王め
皆を苦しめた罪を、あの世で償うといい!」
グワァァァァア
魔王は倒され、勇者達は国へ帰還し、世界は永劫の平和に包まれました。
めでたしめでたし。
みんなは喜び、歌い、踊り。
もう一生、恐怖に震えることはないのです。
怖い事などないのです。
どんなに幸せな事でしょう。
そんな騒ぐ饗宴の片隅で、ラム酒を煽る男がひとり
此度の主役が、ひとり
大剣を背負い、聖なる魔法を駆使して世界を救った英雄は、もう世界から必要とされることはありません。
あの興奮に満ち溢れた日々は2度と帰ってこないのです。
なんてフシアワセな事でしょう
男は酒を飲み干すと、静かに何処かへ去っていきました
誰も気づきませんでした。
仲間の王女は歓迎パレードに引っ張りだこだし、
かつて背中を預けた魔法使いは論文に忙殺され、
旅で出会った荒くれ者は恋人ができて忙しかったのです
国民さえも、気付きませんでした。
役目を果たした勇者は、もう必要なかったからです。
数百年後.......
平和だった世界に、恐ろしい魔王が生まれ落ちました。
魔王はあっという間にこの世の半分を支配し、
魔物の数を増やし、王国を絶望に陥れました。
むかしの慣習に従って、恐ろしき魔王に抗うべく新たな勇者達が立ち上がりました。
山越え谷越えアドベンチャー
魔物を倒して勝利の美酒
仲間を信じて背中を預け、笑いあり涙ありの冒険譚
そんな日々ももう終わり。
新たな勇者と対峙した新たな魔王は告げる
「私の名は.....
勇者。いや、魔王アルファード」
お前は私の退屈を癒してくれるかな?
強大な力を持った新たな魔王は、闇に染まった勇者の力で立ち上がる幾人もの勇者達を討ち滅ぼしてしまいます
それでも幾人もの勇者は立ち上がります。
立ち上がるしかないのです。
気づかぬうちに心までも操られた人類は、
ずっとずっと、男の手のひらで踊り続ける
きっと、ずっと。
【私の名は】
7/20/2024, 12:35:09 PM