急停車した地下鉄はなかなか発車しなかった。広告のヴィジョンをぼんやり眺めていた先輩が、
「いっぱい喋ってたら喉痛なってきた」
と鞄からポーチを取り出す。
「どっちがええ?」
白い手のひらに、赤と緑の個袋が載っていた。赤はいちご、緑はマスカット。
「じゃあ、こっちで」
礼を言ってマスカットを取ると、先輩がニヤリとした。
「そっちやと思た」
満足そうに頷いて、先輩は赤い袋の封を器用に切った。
私はいつも、この手の袋がなかなか開けられない。しばしの苦闘の末、ようやく黄緑の粒を口に放り込む。懐かしい甘さが口に広がる。
「ほんま不器用やんなぁ」
手の中でポーチをいじりながら先輩が言う。ジッパーにプリンのチャームがついた、派手な柄のポーチだった。
「先輩やって——」
私は反撃を試みる。
「どこからでも切れますってドレッシングの袋、よう失敗しとるやないですか」
「うっわ、見られとったんかい」
降って湧いた私と先輩の時間を、優しい甘さが埋める。ドレッシングを開けるのが下手で、飴の袋を開けるのは得意。部長にもちゃんと意見するのに、小学生みたいな誤字をやらかす。ぬいぐるみが好きだとか、竹野内よりは反町派だったとか。知ってるあなたより知らないあなたのほうが、まだこんなにも多い。
なあ地下鉄。もうこのままずっと停まっててくれへんかな。それが無理ならせめて、LINEでも交換できるまで。
『もっと知りたい』『ずっと隣で』
3/14/2026, 9:29:55 AM