『時計の針が重なって』
時計の針が重なって、
――私たちはもう一度死んだ。
世界が赤く染まっている。
血飛沫ではなく、朝焼けで満たされている空間に私は安堵をついた。
もう一度、もう一度だ。
……だが、あと何回チャンスがあるのだろう。
世界が何度も繰り返している。
誰のせいかは置いておいて、誰のためかは決まっていた。
「おはよう、今日は早いね」
「うん……ちょっとね」
何も覚えていない顔で挨拶をしてくる彼氏。笑顔が眩しくて、心に突き刺ささった。
あと、もう少し、学校に辿り着くまでの道のり数十分の間に、彼は死ぬ。
その原因は様々だが、何度やっても、彼を助けられない。
無理に身代わりになろうとしても、一緒に死んでしまうだけ。
「ねぇ、大丈夫?」
「……え?」
「なんか今日は調子悪そうじゃない?」
大丈夫、と声をかけようとしたそのとき、彼の上に落ちてくる植木鉢が目に入り咄嗟に体を動かして彼を突き飛ばした。
驚く彼の表情とこちらに伸ばす手、そして自身の頭に重く響く振動と衝撃。
やった。彼を助けられた。
そんな思いで目を閉じようとしたとき、思わず目を見開いた。
彼の体が空中に舞った。
車に大きく跳ね飛ばされたその体からは、どくどくと赤い血が留めなく流れている。
ああ、また。また。
目を閉じる。固く目を瞑った。
6時32分。
腕時計の針が重なる時間、カチリという音と共に私たちは――もう一度死んだ。
次こそは、絶対……。
9/24/2025, 4:35:04 PM