「警部! 現場の壁に飾られていた絵の裏からこんなものが!」
部屋の中を調べていた捜査員が飛び込んできた。手に封筒を持っている。
「これは……手紙?」
細長い茶封筒はテープで口が留めてある。
「この家に住む何者かが隠した手紙かと」
慎重に封筒に入った手紙を取り出すと、二つ折りの便箋に次のように書かれていた。
いたずらをする子にはおやつ抜きです
「これは……」
書き置きのように見える。
「おか、母親から子どもへの書き置きだな」
警部が言った。
「ごめん、おそくなった」
突然部屋に見知らぬ男が入ってきた。
「こら! 捜査中だ! 部外者は入ってくるな」
捜査員の一人が制止する。
「あ、もう始まってるんだ。ごめんて、自転車の鍵を探してたら遅れちゃって」
男はとぼけたセリフをはいた。
「これはこれは探偵さん。ぜひ私たちの捜査に加わってください」
男は探偵のようだ。
「あ、ぼく探偵役なんだね」
男も探偵と自覚したようだ。
「話を戻そう。僕たちは昨日から刑事ドラマごっこをやっていて、犯人役がテーブルの裏にガムをくっつけたり、額縁の裏に落書きをしたりしたのを見つけ出す遊びをしていた」
警部が状況を説明する。
「それは刑事ドラマじゃなくてただのイタズラじゃないかな」
探偵は鋭い指摘をした。
「そして今日になって事件は起こった。お母さんによって用意されているはずのオヤツが何者かによって盗まれていたんだ」
「えー、最悪じゃーん」
事情を知らなかった探偵は新鮮なリアクションでガッカリした。
「もしかしたらこの手紙に書かれているのは何かの暗号では? おやつ抜きという言葉に何かヒントがあるのかもしれません!」
捜査員の一人がひらめいたとばかりに大声を出した。
「そうか、これは子どもへの書き置きに見せかけた暗号だったのか! 簡単な暗号だ。この文章から『お』と『や』と『つ』を抜けばいいんだ! そこにオヤツは隠されている!」
「ちょっとそれ、ぼくにも見せて」
探偵は手紙を警部から受け取った。
「はあ、これ、暗号なんかじゃなく、言葉どおりの意味だと思うけど?」
探偵の言葉に、警部は顔面蒼白となる。
「なんだって! そうか! やられた!」
「警部!どういうことですか?」
捜査員も慌てふためく。警部は事件の真相を語りはじめた。
「お母さんは僕たちが昨日イタズラをしたと思い込んで、今日も調べるであろう場所に先回りしてこの手紙を隠したんだ」
「まさか、それじゃあこの事件の真実は?」
「今日は本当にオヤツ抜きだー!」
警部たちは自分たちの捜査ミスに涙を流した。
「自業自得だよ」
2/3/2025, 5:27:37 AM