霜月 朔(創作)

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ふとした瞬間


ふとした瞬間、
お前を見た。
なんてことはない仕草だったのに、
俺の胸は、酷く軋んだ。

どれほど近くにいても、
どれほど笑い合っても、
お前は永遠に、
俺の手の届かない場所にいる。
そんな現実に、
気付いてしまったんだ。

俺たちは、友として。
ずっと並んで、
同じ道を歩いていた筈だったのに。
何時からだろう。
俺だけが、足を止めたままだ。

希望なんて、
最初からなかった。
お前の瞳が、
俺だけを映すことなんか、
ある筈もない。
そんな事は、分かっていた。

──だが。
そうだとしても。
お前と笑い合える日々が、
俺の全てだった。

夜の底で、独りきり。
交わせる筈もない甘い言葉を、
心の中のお前に投げた。
だが俺には、
お前との夢を描くことさえも、
赦されない気がして、
浮かぶ幻を、慌てて掻き消した。

お前は、何も知らないままでいい。
だから、
俺は、何も伝えないままでいよう。

俺の想いは、
粉々に壊してしまおう。
床に叩きつけられたガラス細工のように、
痛いほど鋭く砕け散り、
元の形も分からないほどに。

そして──祈ろう。
俺の存在しない未来で、
お前が、幸せであるように、と。

どうか。
この苦い祈りすら、
お前には、気付かれないように。

4/28/2025, 9:15:16 AM