陽葵

Open App

#泣かないで

付き合って3年目のある日。
私が初めて愛した人は突然、この世を去った。
交通事故だった。

「ねえ、あの子の分まで幸せになってね」
彼のお母さんに葬式で言われた。
幼馴染だったから、彼の両親にも公認の仲だった。

頷く事もできなかった私に、
彼のお母さんは慰めるように抱きしめてくれた。
自分も息子を亡くして悲しいはずなのに
私の事を気遣ってくれる優しさは、彼に良く似ていた。


あれから1年。
少しずつ前を向けるようになった私は、荒れ果てた
部屋の整理を始めた。

彼の物を見るたびに涙が止まらなくて、
仕事も休んでいた。
こんなんだと、彼に笑われてしまう。
彼のお母さんにも合わせる顔がない。

悲しくはなるけれど、あの頃よりも思い出を
振り返られるようになったから。

「あ、これ初めてもらったネックレスだ」

「沖縄、楽しかったな」

「…っ!」

引き出しの奥から出てきた1枚の紙と私宛の手紙に
涙が止まらなくなった。

紙は、婚姻届だった。

手紙は、
誕生日のお祝いとこれからも一緒に生きていきたいと
いうメッセージだった。

事故から2週間後は私の誕生日だった。

ねえ、やっと泣かないで
前を向けるようになってきたのに…。

「私も一緒に生きたかったよ…。
 置いていかないでよ…!」

彼のお母さん、ごめんなさい。
私、約束を守れそうにないです。

だって、彼と一緒に幸せになりたかった。



12/1/2023, 9:57:49 AM