たろ

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【逆光】

太陽の光を遮る雨戸を開ける音がする。
開け放たれた窓から、目が眩むほどの眩しい光が射し込む。
「わぁ、良い天気!…起きて、かっちゃん!目茶苦茶良い天気だよ〜?」
元気な声が弾んでいるのが、頭に響く。
「ありゃ、ごめん…。かっちゃん、朝苦手なんだよね。」
瞑った目の奥まで突き射さるような明るい陽光から、逃れるように寝具へと顔を埋める。
「…ね、かっちゃん?朝ご飯、何が良い?」
枕元に顔を寄せて、耳元を嬉しそうに潜めた声が擽っていく。
「…ぅう、ん。」
とろとろと微睡みそうになる思考を手繰り寄せようとするけれど、少しもまとまらない。
「うどんはないけど、炊きたての白いご飯と厚切りの食パンがあるよ。おかずは、卵使いたくて、納豆と味付け海苔があって、ベーコンとウィンナーがあって、大盛り野菜のおつゆ作ってるんだけど、味が決まらなくって…。でも、もう少しで出来上がります。」
もどかしくベッドに溺れている身体に、歌うように朝食をアナウンスする声が沁みていく。
「…ぱ、ん。ベー、コ…。」
がっさがさに掠れ切った寝起きの酷い声が、喉の奥から絞り出てきた。
「お、パンとベーコンね!じゃあ、クロック・マダムだかムッシュだかにしよう!パンはトーストかそのままか。あと、卵の焼き具合もリクエストあったら、教えてね。」
ごそごそと起き上がる為に体を動かしていると、陽射しが急に遮られた。
「さぁ、体起こそ?いくよ、かっちゃん。せーのっ、ほい!」
ひょいと抱き上げられる様に、視界が揺れてベッドの上に座り込んでいた。
「かず、ま…?」
後ろを振り返ると、背中に光源を隠した人影が、こちらを見下ろしているらしい。
「おはよう、かっちゃん。和真くんですよ。分かる〜?まだ、眠いね。顔洗いに行けそう?洗面器、持って来ようか?」
ぼんやり具合が、心配を誘ったようだ。
「いい…。おり、る。」
逆光で良く見えない表情とは別に、心配そうな声が心地良く響くので、またウトウトと微睡みそうになる。
「顔洗って、落ち着いたら、もっかい相談するね。ゆっくり決めてね。待ってるから。」
軽く頷いて、のそのそとベッドから床へ足を降ろす。
「ちょっとコンソメの素入れて、スープの火だけ止めてくるね。すぐ戻るから、待っててね!階段、独りで降りないでよ?」
バタバタと忙しい足音が去っていく。
「…ふぁ、起きた。あと、じゅん、び。」
ゆらゆらと揺れながら瞬きを繰り返して、瞼を持ち上げる。

振り返った窓辺にはレースのカーテンが掛かっていて、穏やかな陽射しが陽だまりを作っていた。
「良い、天気。…良い、匂い。」
階下から上がってくる美味しそうな香りに釣られて、お腹が盛大に鳴った。
ゆっくりと立ち上がって、背筋を伸ばす。

今日は、ふたりで何をしよう。

1/24/2024, 11:15:44 AM