やりたいこと
「花かけらの波を見てみたい」
夕食を終え、紅茶を片手にそれぞれ本を読んで穏やかな時間過ごしていたさ中、ふとヒロがぽつりと呟いた。
「世界を修復する時に現れるアレ?」
「そう、アレ。俺は人間だから空を飛べないし、きっと生涯拝むことは無いって思ってたんだけど、よく考えたら俺にはネロがいるじゃんね」
ヒロはパタンと音を立て本を閉じた。口は弧を描き、まだ幼さの残る顔でネロの顔を覗き込む。数年前まではネロの隣にいる自分に納得できず、自己嫌悪していた人間がこのような事を言えるようになるなんて、とネロはどこか保護者のような目線で感心する。実際は恋人という関係なのだけれど。
「……箒に乗せろって事ね」
これは甘え下手な恋人の珍しく上手な甘えだ。ヒロが仕事を趣味にしていること、天体に対する好奇心が強いこと、数年を一緒に過ごして知らないわけがない。自分が魔法使いであるからこそ彼の好奇心を満たすことが出来るのなら、案外魔法使いの力も悪くないのかもしれない。足として使われようとしているだけなのだが、ヒロが素直に甘えてくれるようになったのは喜ばしい事だ。ネロは呆れたように、しかし嬉しそうに眉を下げて笑った。
「仕方ねえな」
6/10/2024, 3:44:58 PM