「沙都子、プレゼントあげる」
私は友人の沙都子の部屋に遊びに来た
部屋の定位置に座って落ち着いた後後、沙都子にプレゼントを渡す。
いつも遊んでくれるお礼だけど、喜んでくれるといいな。
「百合子、ゴミはゴミ箱に捨てなさい」
けれど肝心の沙都子は、私の方を見ずにゴミと言い捨てる。
なんで見ないでゴミと言い張るのか?
まさか私のプレゼントは、全てゴミと思ってるんじゃなかろうな?
「ゴミじゃない!
ちゃんと見てよ!」
「はいはい……
なによ、ただのチラシじゃない?
やっぱりゴミね」
「ちっちっち。
沙都子には、ただのチラシに見えるのかい?」
「チラシでなければなんだというの?」
沙都子はうんざりした顔で、私を見る。
もちろん沙都子の言う通り、これはチラシだ。
今朝の新聞に挟まっていたチラシ……
けれど、他のチラシとは一味違う!
「これはね、『ピザ』のチラシなんだよ」
「ピザって食べるピザ?」
「そうだよ。
沙都子の家って、お金持ちじゃんか?
だからこういうの食べたことないだろうなって思って」
そう言うと、沙都子は腕を組んで考え始めた。
「言われてみれば、確かに食べたことないわね……
ウチは栄養に気を使っているから、こういうジャンクフードは食べないのよね」
「一緒に食べない?」
「奢りかしら?」
「……好きなだけ食えっていいたいんだけど、ゴメン、お金が無いので奢って下さい」
「それが目的ね……
仕方がない、割り勘でならいいわよ」
「ありがとう沙都子!
お礼に、トッピングは沙都子が選んでいいよ」
「まったく調子のいい……」
沙都子は苦笑いしながら、私からチラシを受け取る。
なんだかんだ言いながら、私には優しいのだ。
「へえ、初めて見たけど凄いわね。
こんなにたくさんメニューがあるのね」
沙都子は余程珍しいのか、楽しそうにチラシを読んでいた。
ちょっと意外だけど、こうしてみると沙都子も普通の女の子の様に見える。
見てるのがピザのチラシ、ということに目を瞑ればだけど。
それにしても、こんなに気に入ってくれるなんて予想外だ。
ここまで沙都子が喜んでいるなら、私もプレゼントした甲斐がある。
沙都子は何を注文するんだろうか
初めての沙都子のピザ。
これから楽しみだ。
◇
三十分後。
「ねえ沙都子まだ」
「待ちなさい。
まだ選んでいる途中だから」
沙都子は、チラシから顔を上げずに答える。
まるで獣のような鋭い眼差しで、チラシを見つめている。
注文するピザを検討しているようなのだが、なにも決まらないらしい。
気持ちはわかるのだが、いい加減お腹もすいてきた。
「ねえ、何でもいいから、早く注文しようよ。
お腹減ってきたよ……」
「ダメよ、一枚しか注文しないもの。
しっかりと吟味して選ばないとね」
「別にそこまで真剣じゃなくても……」
「どうせなら一番おいしいピザを食べたいでしょ?
……あっ、これもおいしそうね」
……これは永遠に決まらないやつだ。
全部がおいしそうに見えて、決めることが出来ないやつ。
私もそういう経験がある。
「ねえ、ピザを頼むのは明日にしようよ。
私はもう帰るから、ゆっくり考えてね」
「もう少しいなさい。
割り勘じゃなくて、奢りでいいから」
「あー魅力的な提案だけど、用事があってね。
帰らないといけないんだ」
「そう、残念ね」
もちろん用事があるなんて嘘。
けれど、このまま待っていても餓死あるのみ。
さらに何かを言われる前に、そそくさとその場を後にしたのであった。
◇
翌日。
学校に登校して現れたのは、フラフラで歩いて来る沙都子であった。
その目は真っ赤で、昨日は明らかに寝ていないようだった。
「悪いわね、百合子。
まだ決まらなくって」
まだ決めて兼ねていたのか。
思わず口に
「えっと、もう全部頼まない?
クラスの皆呼んでさ」
「それは……」
沙都子の目が鋭くなる。
だけど一瞬の事、すぐに眠たそうな目になった。
「……もう、そうするわ」
そぅいたたと、沙都子は机に突っ伏して、深い眠りにつくのであった。
10/16/2024, 1:57:14 PM