「『どうせこのアプリの傾向から、今日のお題は「新年」とか「正月」とかなんだろ』と思って投稿の準備してたけどさ……」
うん。みなまでは言わん。某所在住物書きはテレビとアプリで情報を追いながら、今日投稿分の予定だった文章に修正を加えている。
時折手を止め「お気に入り」を確認するのは、そこに登録している面々の安否・無事を確認したいから。
さすがにまだ、投稿は少ないらしい。
「……明日投稿分どうしよう」
三ヶ日、今年の目標、初詣、初夢。年間行事ネタの多数登場するこのアプリで、新年直後のお題は予想がしやすい。が、
「今年のこの状況」で、明日、何が書けるだろう。
――――――
都内某所の某アパート、新年の朝。
部屋の主を藤森といい、近所の参拝客少ない稲荷神社で早々にお参りを済ませて、
防音防振設備の整った比較的静かな自室で、1月1日を過ごしていた。
テーブルの上のスマホからは、グループチャットアプリのメッセージ受信通知が吐き出され、
すなわち、藤森の職場の後輩が某カフェの正月限定メニュー(にランダムで添えられる非公式概念アクリルチャーム)を一緒に楽しもうと誘ってきたり、
職場の同僚が儀礼として新年の挨拶をしてきたり。
ひいきにしている茶葉屋からは、三ヶ日限定で使用できる10%引きクーポンが。
つまり、「消費税分を負担するので、急須だの湯冷まし器だの、買い替えませんか」の誘いであろう。
「……去年買い替えたばかりだが」
茶器と茶葉を置いている棚を見て、藤森がポツリ。
諸事情あって、一度部屋の家具家財のほとんどを手放したのだ。その諸事情が予想外に「解決」してしまい、藤森は再度、多くを買い直すハメになった。
去年の11月、16日頃のことである。
「宇曽野に茶香炉でもくれてやれば良いのか?」
宇曽野とは藤森の親友、既婚の野郎のことである。
戸棚から茶筒を出し、賞味期限を迎えた分を取り出して、香炉用を保存している容器へ。
空になった方の筒の中に、新しく封切ったものを――香りたかく余韻の甘い川根茶を詰める。
スンスン、すん。
鼻を近づければ確かに感じる緑茶の甘香に、その優しく穏やかな清涼感に、藤森はsh
ピンポンピンポンピンポン!!
『おとくいさん、こんにちは、こんにちは!』
「なんだ。元旦の朝っぱらから、騒々しい」
雰囲気急転。ぼっちで茶葉の詰替えをしていた藤森の部屋に、インターホンの連打が響き渡った。
「あけまして、おもち、買ってください!」
ドアを開ければ藤森の予想どおり。
去年3月からの付き合いの、稲荷神社在住な餅売りが、年齢一桁後半か10代前半あたりの子供が、
それはそれは、目をキラキラさせて、「狐の尻尾など高速でブンブン振り回して」、藤森を見上げている。
「おいしいおいしい、ウカノミタマのオオカミサマのご利益ゆたかな、正月おもち、今ならご利益ぞーりょーちゅー!」
一部非現実的なトンデモ描写が挟まったが、気にしない。どうせフィクションである。
「すまない。今日は結構だ」
藤森が訪問販売を断ろうとすると、子供は「耳と尻尾を絶大な驚愕にピンと立てて」、目を見開いた。
「お正月におもち、たべないの……?」
「『今日は』、結構だ、というだけだ。ともかく、まぁ、今年もよろしく」
「明日おしるこお持ちしますか?明後日おしるこお持ちしますか?しょっぱい方がいい?」
「あのな」
「海のおそとの、アニョハセヨな9本尻尾おばちゃんは、『ハツキムチとかレバーキムチとかと一緒に炒めてチーズ入れるのも、意外と美味しいのよ』って」
「待て。それ、『何』のハツとレバーだ」
「おばちゃん、『ただ無言でニッコリ笑って、相手を見て、相手が顔面真っ青になってから、ブーブーブヒブヒって、正解を教えてあげなさい』って」
「あのな……?」
1/1/2024, 10:48:15 AM