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ふと手のひらを開くと、人差し指の先が切れて血が出ていた。しかし、どうして血が出ているのか思い当たる節がない。自分はただ道を歩いていただけである。その時、耳に激しい痛みが走った。嫌な予感がして耳を触ると、そこからもやはり血が出ていた。通勤前の出来事だった。通勤路は非常に道が広く整備されていて歩くのに妨げになるようなものはなにもない。私はただいつものように歩いて会社に向かう途中だった。いつもと違うのは家に手袋を置いてきてしまったこと、そしてよりによってそういう日に限って風が強くて寒かったこと。会社に着いてみると、社員たちはみんな事務局に殺到していた。どうやら絆創膏をもらう列らしい。
「やあ、Aさん。おはようございます」
「おはようございます、Bさん。これは一体なんの騒ぎですか」
「見ての通り、絆創膏をもらう順番待ちです。今日は風が強かったでしょう?」
「風?」
「あなたは最近引っ越してきたばかりでしたね。ここは他よりも一段と寒い地域でしてね。特に風は皮膚を切るほど。みんな北風に皮膚を切られて、こうして絆創膏をもらいに並んでいるわけですよ」

1/11/2023, 1:36:38 PM