織川ゑトウ

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『夏場の独り言』

夏。ちょうどお盆でお墓参りに来ている。
左手には、線香とマッチが入っている袋。
右手には、先程自分の向日葵畑で取ってきた少し大きい向日葵。
最近は猛暑日が続いているということもあり、鐔が広い帽子を深く被る。
自分が唯一持っている小さな車でお墓の目の前まで来てみたが
ここら辺はお墓の集団地ということもあり、大分端まで行かなくちゃならなかった。

「ふぅー…やっぱりここらは荒れてるなぁ~」

田舎の中のさらに田舎であるこの辺りは人気がなく、
またお墓の手入れをする人も少ないため雑草がぼうぼうだ。

「一応刈っておくかぁ」

ポケットからこんなこともあろうかと持ってきていたポケットナイフで草を刈ってゆく。
ざくっざくっと小気味よい音が、静かな平地にすぅっと馴染んでいく。

「よし。このぐらいでいいかな」

30分程が経過したが、真夏の太陽は変わらず全身に照りつける。

「えーっと、あの子のお墓は…」

場所を覚えることが苦手な自分は、
他のお墓を目印に一歩また一歩と目的地までを淡々と歩く。

「あ!あった!」

自分が到着した所には、他の墓とは完全に決別されたであろう
縦横2mぐらいのちょっぴり膨らんだ土地があった。

その土地には墓と言えるようなものがあるかと言えば、
「たろう」と掘られたか細い棒と、使い終わった線香が刺さっているということだろうか

「ん~久しぶりだね~たろうー…僕が来たよ~」

灼熱の太陽のおかげで暖まった土が亡くなったあの子を思わせる。

「たろう」…僕が二年前まで一緒にいた犬だ。
たろうは犬といってもただの犬じゃなかった。

「やだ!やめてよ!!」
「うるさい!!黙れクソガキが!!」
「グルルルル…ガウッガウッ」
「チッ…またこの犬かよ!」

ダンッ

「きゃうんっ!!」
「た、たろう!たろう!」

僕が虐待を受けていた時に守ってくれた、僕の大切な大切な家族だ。
たろうが僕を守ろうとして、蹴られているのをさらに僕が守ろうとして…
二人で一緒に成長したな。
僕がちょうど中学生になったころかな…虐待をしていたお父さんが捕まって、
僕とたろうが親戚に移されたんだ。
そこでやっと助かったと思ったんだけど…

「たろう~…もう足は大丈夫かな。天国で走り回ってるかな」

あれは、二人で親戚に来て約二週間がたった頃。
たろうが交通事故にあった。
ちょうどおばさんが散歩に行ったときに、飲酒運転のトラックが突っ込んできて
おばさんを守ろうとしたたろうがトラックに跳ねられた。
幸い命に別状はなかったけど、足が思いっきり地面に打ち付けられたために骨折。
たろうが走ることはもうできなくなった。

その後のたろうは元気がなくて…それでも僕が大人になる20歳まで生きてくれた。
二年前たろうが亡くなった頃は、
もうそろそろだろうと思っていたから身構えてはいたけど涙は抑えられなかった。
ただ悲しくて、悲しくて、何日も寝込んだ。
でも、ある夜にたろうの声が聞こえたんだ。

「わぉんっ!わぉんっ!」

寝ているときに耳元で、ちっさな声だったけどしっかり聞こえた。
その時に、思い出したんだ。
足を折った後のたろうは体は元気なかったけど、声だけにはやたら元気があって

「わんっ!わんっ!」
「お、今日は気分いいのか。おやつでも食べる?」
「わぁぉんっ!」

その声を聞くたびに、僕も頑張ろうと思った。

きっとたろうが元気だして!って言ってくれたんだろうなぁ。
その日の朝、僕はすぐに近くのお墓まで走っていった。
当時車は持っていなかったからおばさんのをかりて、たろうと一緒に。
お金があんまりなかったから墓という墓は造れなかったけど、それでも十分だった。

「んでもってなんだか物足りなくて刺したのがこの「たろう」って掘られた棒」

十分ではあったけれど、物足りなさを感じた僕は
近くに落ちてた木のささくれみたいな棒に石で「たろう」と掘った。

「今考えたら中々に小学生みたいなことしてるなぁ笑」

それでも、僕にはたろうがそこにいてくれている気がして
一時間くらいはずっとたろうの墓の前に座っていた。

「たーろう~…今の僕のことは見てるかなぁ…」

墓の目の前にある海に語りかける。

たろうが亡くなった後の僕は、
一流企業に勤めてたろうにこの姿を見てもらおうって毎日奮闘してた。

「まだ彼女はできてないけどね笑」

この一年に一回この一時のために頑張っている。

「おっとそろそろ帰らなきゃ」

この田舎に馴染まない最新式の腕時計を見るともう二時間も経過していた。

「じゃあ、またね。たろう」

そう言って、最後にそっとたろうの体がある場所に触れて、この場を去った。

ザザーンザザーンザッパーン…

わぉんっ!

僕が去った後の波打ち際からは、静かな波音だけが響いていた。


お題『君の奏でる音楽』

※鐔(つば)=帽子のつば

あとがき
主人公とたろう。幸せな未来があるといいですね。たろう、実は忠犬ハチ公みたいに主人公のことをずっとあのお墓で待ってたり…。
話題変わるのですが、他の皆様って書くのに何分ぐらいかかってるんでしょう?私は大体一時間です。時間が過ぎるのは早いですね。お盆休みだと時間がゆっくりとれて楽です。
お盆休み、皆様は帰省やご旅行でしょうか。暑さ対策をお忘れなきよう気をつけて楽しんでらっしゃいませ。






8/12/2023, 2:31:01 PM