Acogare

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けいちゃん、けいちゃんと呼ぶ声がした。
媚びた香水の強い女の声ではない。砂糖が入った甘い紅茶のような声だった。
小雪か?、圭太郎は夢の中で目覚めた。そこは真っ白な夢の中だった。圭太郎は真横に座っている女の気配を感じ、其方の方に目をやった。それは小雪であることに間違いはなかった。顔の整った圭太郎には少し不釣り合いな容姿の女ではあったが愛らしい顔や声、きちんとした服装や所作など目には見えない小雪の全ての要素が上品で朗らかであった。圭太郎は小雪が大好きだった。
夢の中の女も、形や声、服装も小雪のもので間違いはなかった。しかしその女は丁度目に靄がかかった状態であった。それは小雪である、だが圭太郎は断定できずに彼女の名前を呼ぶ事が出来なかった。何故なら、小雪は安らかな瞳の持ち主であったからだ。何を見るのにもその安らかな瞳を向けるのである。端正な圭太郎は周りの欲望にまみれた瞳とは全くもって違う、その瞳に何回も救われたのだ。だから圭太郎は断定出来なかった。
安らかなその瞳は小雪そのものだと知っていたからだ。

3/14/2026, 10:00:53 PM