タイムマシーン
僕はタイムマシーンを作るんだ。
そう言ったかつての友は、その十年後、立派な科学者になっていた。
「急に会いたいなんて連絡来てびっくりしたよ」
「はは、ごめんごめん。元気にしてた?」
高校を卒業して以来、一度も連絡をとっていなかった彼から急にメールが来たのは二週間ほど前だった。
「うん、まあぼちぼちかな」
当時は二人とも誰の目も気にせず、やりたい事をやりたいだけやって、よく大人に怒られていた。この二人だったら何でもできると信じていたし、夢だって何でも叶うと本気で思い込んでいたんだ。
「ところで今日はどうしたの?」
「いや、特に用があるわけではないんだ。ただ唐突に君のことを思い出して、どうしても会いたくなっちゃってさ」
「そっか……。そうだ、聞いたよ。タイムマシーン作ってるんだね」
「うん。おかげさまで順調に進んでいるよ。あと数年もあれば完成する見込みだ」
そう答えた彼は目の前の珈琲をすすって一息つくと、静かに話し始めた。
「実はさ、この前あと一歩の所で行き詰まっちゃって。何回改良を重ねても、どうにも道が見えなくてくてさ。ちょっと前まで、どうしてできないんだって怒りや不安や焦りやらで押しつぶされそうだった」
「それはしんどいな」
「うん。壊れそうな程しんどかった。でも、君のおかげで抜け出せたんだ」
「えぇ、俺?」
思ってもみなかった言葉に驚いていると、彼はそうさと微笑んだ。
「高校生のとき、僕がタイムマシーンを作るって言ったときあっただろ?」
「ああ、そんなこともあったね」
「その時君は、僕を否定しなかったんだよ。今まで誰も成し遂げていない幻想を、馬鹿正直に語る僕のことをね。否定しないのかって聞いたら、こう言った。今俺らが生きている世界は、見果てぬ夢を見た人たちの努力と奇跡の結晶なんだ。君のその夢は実現するかはわからないけど、僕の親友が世界を変えたのなら、これほど素晴らしいことはないよ、ってね」
それを聞いて、はっと思い出した。いつから俺は、あの時の情熱や純粋さを忘れてしまっていたんだろう。
「君のその言葉があったから、僕はその暗闇を抜け出して、ここまで来れたんだ。こんなところで諦めてられるかってね」
そこまで話すと彼は再び珈琲に口をつけた。真っ直ぐと前を見つめる視線に、揺らぎはない。
「夢を見るってのは、いいものだよ。わくわくして、生きてるって感じる。あと数年もしたら、必ず僕は世界を変えてみせるさ」
そう言った彼の瞳は、あの頃の少年のまま、眩しく輝いていた。
1/22/2024, 3:37:01 PM