ミミッキュ

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"誰にも言えない秘密"

 大我は酔わない。
 酔ったところを見た事なかった。
 酔いが回った者の介抱をするのが当然のように立ち回っていた。同じ量を呑んでいたはずなのに、そんな様子を見せないで。
 だから、酒に強い人なのだと思っていた。
 付き合って半年程経った頃に俺の自宅で二人で呑んだ時、その認識は間違いだったと気付かされた。
 普段店などで呑んでいる物と同じ程の度数の酒を出し、本人も「それでいい」と言ったので渡して呑ませた。
 五杯呑んでも全く酔いが回らず通常と変わらない様子なのに、一杯どころか半分呑んだ辺りで様子が変わった。
 顔が紅潮し目尻がとろりと下がって、身体がゆらゆらと、まるでやじろべえのように揺れだした。
 帰ってくる言葉や返事も、まるで幼子のように舌っ足らずな短いものばかり。
 その後何度か共に呑んできて、一人で呑んでいる時の事を聞いた事もあるが、本人曰く「一人で呑んでいる時も酔った事が無い。酔ったのはあの時が初めてだ」だそう。
 条件が揃えば酔いが回るタイプの人だと分かった。
 おそらく普段は気を張っていて酔いが回らない身体になっている。だが自身や俺の自宅で、俺と呑んでいる時に気が抜けて酔いが簡単に回るようになるのでは無いかと思う。
 大体の人は自分一人だと気を抜くと思うが、まさか一人の時も気を張っているとは。
 五年間身を置いていた環境が環境だったとはいえ、俺が思っていた以上に思い詰めていて、それを六年近く経っても引き摺っているのを知って、なんとも言えない感情が一気に押し寄せてきたのを覚えている。
 それからは俺が大我の、心から気を許せる居場所になろうと、できる限り寄り添い続けている。
 今ではハナという共に暮らすパートナーがいて、大我の居場所が一つ増えた。
 シェアハウスというものがあると知って、互いの勤務先から近い場所に部屋を借りて大我とシェアハウスをしようかと思っていたところに大我のもとへやって来て、そのまま大我が飼い主となった。
 最初は嫉妬こそしたが、今では大我を守る仲間。
 それと、ないとは思うが、大我が酔っているところを他の奴に見せたくない。
 大我本人も「恥ずかしいから知られたくない」と言っていた。本人が知られたくないと言うのなら、その秘密を守る事も恋人の仕事。
 だが俺の『見せたくない』は、独占欲もある。
 酔った大我は、まるであの頃のような笑みを見せてくれて、あの頃と雰囲気が変わっても本質までは変わらないと少し安心するのと、あの頃を思い出して懐かしさに浸れる。
 それと単純に可愛い。普段では有り得ない言動で酷く幼くなっていて、俺が手洗いに立とうとすると「ひとりいやぁ」と抱きついてくる。それと色白の肌がアルコールでほんのり赤く染まって色っぽい。
 そんな無防備な姿を、他の奴に見せるわけにはいかない。

6/5/2024, 11:33:09 AM