♪こんなに〜お天気なのにね〜
うろ覚えの歌詞を口ずさむ。忘れてしまったところは鼻歌で誤魔化して、何度も同じメロディを繰り返す。
歌詞通り、外はよく晴れていて遠くにみえる木々がほんのり紅葉しているようにみえなくもない。視力には全く自信がないからしかたない。
カラカラと油の足りていないタイヤが回る音が部屋の前を通りすぎていく。空元気な声で楽しそうな会話をする人たちが部屋を出ていった。
まあこんなところで元気よく楽しめることなんてない。だって治療をするための場所で、みんながみんな自分とは無縁の場所だと信じてやまないところなのだから。
「なんだ、随分と辛気臭い顔だな」
当たり前だ。治療を理由にこんなところに閉じ込められていたら誰でもそうなる。スタッフや施設がどうとかじゃなくて、慣れない場所で落ち着かない生活をしていて疲れたのだ。解放される喜びより疲労感が強い。
会計をすませ、荷物と退院処方を両手に久しぶりの外へ自分の足で出ていく。夏とはちがう少し乾燥した暑さを感じた。
「久しぶりのシャバの空気はどうだ」
冗談めかした言葉にムッとして隣に立つ人を見上げた。久しぶりに顔を合わせたその人は相変わらずきれいで、そこに隠しきれない嬉しさを滲ませた笑顔までついてきたら何も言えない。
私の方が嬉しいはずなのに、この人には負ける。
なんだか悔しいな。
【題:秋晴れ】
10/18/2024, 11:34:17 AM