「列車に乗って」
今日は休日。そして晴れ。ついでにやることなし。
寝起きの頭でなにしよ〜かとぼんやり考えてたら、
早起きのきみが元気はつらつな声でこう言った。
「今日はお出かけしよう!!」
たしかに天気も良いし、これ以上ないくらいお出かけ日和だ。
「いいね。どこに行く?」
「ちょっと遠いけど、アネモネのお花畑見に行こうよ!
今見頃だってテレビで言ってた!」
最近は良くも悪くも昔ほど季節感を感じられる機会が減ってきたよなぁなんて思いつつ、きみが作ってくれた朝ごはんの目玉焼きトーストを頬張った。シンプルでありながらも美味い。
「あ!ちょっと待ってて!せっかくのお出かけだからちょっとおしゃれをしてきます!」
そう言いながらきみは自分の部屋に戻って行った。
ぼくも気合いをちょっとくらいは入れた方がいいかと思って、タンスの奥から引っ張り出してきたおしゃれ着を来た。あんま似合ってないな……。
準備を済ませて家を出た。「駅まで5分!」が売りの物件だが、実際には10分くらいかかる。近いのか遠いのかわからない駅まできみとゆっくり歩く。
「ねーねー」
「?」
「マネキンの服、そのまま着せられたみたいな格好だね」
「そんなに似合ってない?」
「似合ってないっていうよりかは、もっと似合う服がある気がするんだー」
「あ!電車来ちゃう!急がないとー!」
ぼくらは列車に乗ってアネモネ畑に向かう。
彼女は本当に楽しそうにしているが、ぼくは久しぶりの外出なのでちょっと緊張している。
他愛もない話をしながらしばらく列車に揺られていると、目的の駅にもうすぐ着くアナウンスが流れた。
駅からしばらく歩いたが、一向に着く気配がない。
「道、間違ってない?」
「んーん。こっちで合ってるよー!」
一応スマホで調べてみたら、確かに道は合っているらしい。
「それにしても遠いな」
「そうかなー?いい運動になるんじゃない?」
だだっ広い畑を、古ぼけた街並みを抜けると、ようやくアネモネ畑が姿を見せた。あたり一面をたくさんの花が彩っている。
赤。ピンク。紫。青。結構種類があるんだな。
「うわ〜!キレイだねー!」
そう言いながら、きみは子どもみたいにはしゃいでいる。
「見て見て!このアネモネ、わたしのワンピースとお揃いの色してる!」
楽しそうにしているな、そう思っているときみは不意に振り返っていたずらっぽく微笑む。
「写真、撮らなくていーの?かわいいわたしの姿を収めておかなくて?」
「そうだなー。せっかくだから撮っておくか」
「ツンデレさんめ〜」
ぼくは何枚も写真を撮った。きみとの思い出が、花の色が色褪せないうちに。
気がつけば、ぼくらは夕暮れ時を迎えていた。
「じゃー、そろそろ帰ろっか。」
きみは少し寂しそうに言った。
もうそんな時間か、そう思って元来た道を戻ろうとすると、
きみは逆の方向にぼくの腕を引いた。「あ!こっちだよー!」
なんで違う道を行くとするのか聞こうとしたところで気がついた。駅がある。
「ふふふ、驚いた?ほんとはここが最寄り駅なんだけど、きみと少しでも一緒にいたくて……。」
そんなことしなくたって、きみが望む限りぼくはずっとそばにいるのに。
そう思いながら帰りの列車で夕焼けと花畑を眺めていた。
3/1/2024, 10:18:07 AM