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「ね、いつまで使い捨てるつもり」

彼女が唐突に僕に言った。

「使い捨て?」

思わず鸚鵡返しをする。それもそうだ。彼女の質問は、今投げ掛けられるものとしてはあまりにも破綻していた。

僕は、何も手に持っていない。それどころか、ここ数分に何も物を、物以外にも人だとか、そういう"捨てる"となると少し哲学の領域に踏み込んでしまいそうな類いのものも、一切捨てていない。故に、何に対して彼女がそう感じ、何を指して彼女がそう言の葉を吐いたのか、皆目検討もつかなかった。

「君には、僕が何か捨てたように見えたのかい」

問うた。
訝しんでいるのがばれてしまったのか、答えはかえってこなかった。
代わりに、捲し立てるような分量の、静かなるヒステリーが僕に覆い被さる。

「みんな、大衆に呑まれて、アクセサリーみたいに何もかもを使い捨てにして、気の毒に。真実を見た者だけの心の代弁を、その重みを、伝えるべく送り出した思いの辛酸をあのひとたちは知らないのね」

彼女がその、近寄りがたい印象を与える、女性にしては軽薄な唇を割るようにして口許に弧を描いたとき、僕は理解した。

彼女はきっと、殺人を犯したことがない人間が、ミステリ小説を書くことを冒瀆だと思っている。
オーバードーズの経験がない人間が、その手の歌を歌うことを滑稽だと思っていて、色欲の奴隷となる人間を、芸術だと本気で思っているのだ。

エンターテイメントとして与えられたものに、命が吹き込まれていると思っている。それを享受するためには、己も道を違えなければならないと思っている。

僕の口許は、彼女の表情をそのまま映すようにして、言った。

「………なんだ、気の毒なのは、君じゃないか」

9/11/2023, 4:27:44 AM