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アイツらが死んでから数日。
あんな所から奇跡的に帰還した自分はひとり誰もいない家を飛び出し、夜空を眺めている。

あの時、もし少しでも勇気を出せば未来はこうではなかったのではないか。
誰かは死なずに済んだのではないか。
...あんかことになんか巻き込まれなければ、みんな。





それは突然だった。

大学の卒業祝いに旅行でバスを貸し切っているとき、山の中、ガードレールだけを頼りに運行されているとき。
急に車体が傾いて、一回転でもしたんじゃないかな。
体がふわっとした感覚に襲われたあと、強い衝撃とともに、横向きになったバスが山を滑り落ちたような感じ。
あくまで予想なのだが。


目を覚ますと、山の中にいた。

なんだか酷い匂いがする。ふっとあたりを見回してみる。木、木、木。森だ。そりゃそうか。
「おーい!お前ら起きろー」誰かの声が聞こえる。

あ、もう起きてる奴がいるのか。と目を反対方向へ向ける。もう既に何人かは起きていて、他の人を起こそうと体を揺らしたり 軽くパニックに陥っていたり、とにかく慌ててた。自分も友達を起こそうと人の多い方へ足を進める。少し歩いて友達がいないか見回すと、いつも話すアイツの姿が見えた。少し気が楽になり、小走りになる。

近づく。




...?






さらに近づいてみる。



...。





その状態の異様さに気づく。







「...生きてるよな?」


心臓がうるさい。気絶したままのコイツはなんて表情をしているんだ。まるで、生き物では無いナニカに襲われた...。...なんて考えるのは馬鹿な話だ。さっさと確かめればよいものを、なにを突っ立っているんだ。

しばらく、手を胸にあててみる。



10秒。
心臓は動かない。

20秒。
心臓は動かない。

30秒。
心臓は動かない。

...

1分。
心臓は...











まさか。





嘘だ。






だって、だってだってだって


あいつは、あいつはさっきまでいきて、はなしてて、

それで、それでッ...!



はっ、はぁっ、はぁ、はッ...

いきを整える。
嘘だといってくれ。
あんなに元気だったじゃないか。
みんなを困らせるくらいはしゃいでたじゃないか。


「  ーい! りあえず集 れー」

声が聞こえる。みんな向かっている、向かおうか。
これからどーする〜?
これ、生きれんの?そーじゃなかったらウケるw
そーいやさっき死人出たらしいよ
俺焚き火やりたいわ
じゃあ焼き鳥食いたい
もー!真面目に考えなよw

一軍の奴らで会話が繰り広げられていく。
早く決めて欲しいと思ったのは俺だけじゃないだろう。



...とまあ、色々意見が出たわけだけど。一旦焚き火を作っておくってことで。男子は枝、使えそうな道具、女子はワタと葉っぱを取ってきて!




...。





まあ、そこそこいい感じの焚き火ができた。
大きいから全員で囲めるくらいの大きさはある。

あたたかいね

そーだねー。

あんま悪くないかもな



深夜。

仕方ないから、今日みんなで葉っぱを敷いて寝ることになった。個人的には超〜〜絶不満だ。





奇妙な感覚に襲われ目を覚ます。心臓がドクドクと五月蝿く、耳に心臓がついているような気までする。


...?


妙な音がする。あっちの方か?

酷い匂いがする。

あちらへ歩いていく。

匂いが強くなる。


ぐちょォ、ぐヂュ べキォ゛。


レロォ、ジュッ...ゴキャ゛...。


不快な音が鳴る。

それもひとつじゃない。




いくつも、いくつも。




なにか光っている。眩しいような光じゃない。
奥に狂気を秘めているような赤。


いくつかの光の中心がこちらを向く。そのうち目が慣れてきたのでぼんやり先が見える。その中によく知っているものがあった。

.........アイツか...?


死んだハズのアイツが、目をギラギラ光らせて生きて
何かを漁っている。
ゾッっとなにかが背筋を伝う感覚がした。



死体が増えている。

その死体がひとつ、ゆらりと目に赤が浮かび、赤の位置が高くなる。起き上がったようだ。


屍人か...

本来なら一ミリたりとも信じないのだが状況が状況だ。
逃げつつ全力で棒を投げ動きを少しでも遅める。

奥になにか見える。

十体。アイツが増やした死体の数。

二体。今起き上がっている死体の数。


ゆらり、ゆらり。



二体から三体、四体...




...暫くは休めなさそうだ。











.........。







あっさり勝った。

...こんなにあっけないのか。

あんなに仲が良かったのに。

友情は食欲1個であっさり消え去ってしまうものなのか。襲いかかってきたアイツにも、遠慮せずに応戦した自分にも腹が立つ。






救急車の音がする。

ああ、...。




...

思い出すんじゃなかった。

また空を眺めて呟く。




夜空が輝く。





居なくなったんだな。みんな、みんな。




輝いた星はいずれ隕石となり堕ちてくる。

堕ちてやがて、地球の一部になる。




アイツもまた、俺の一部となった。






「あたたかいね」
まだ、あの日の焚き火が忘れられない。

1/11/2025, 4:33:09 PM