霜月 朔(創作)

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オアシス


人の世には、
残酷な砂嵐が吹き荒び、
人々の心は、
ひび割れ、カラカラに乾く。

街はまるで砂漠の様に、
人の心を容赦無く襲う。
そんな無味乾燥な街の中、
人々は、傷付け合い、
水を、食料を、住処を、
金も、生命さえ、奪い合う。

人はどんな生き物より、
醜悪で残酷で愚かだ。
優しさを持って産まれた者は、
それを隠さねば、
生きては行けない。

遠い南の地にある砂漠には、
オアシスがあると聞く。

水のない酷く乾燥した、
見渡す限り砂の世界に、
突如現れるという、
水が揺蕩う緑の地。

だが。
俺が暮らす、
この砂漠より、乾ききった社会に、
オアシスなんて代物は、
存在する筈がない。

カラカラの喉を、
人の生命で潤す。
血で穢れた手を、
濁った泥水で洗う。

空を見上げると、
容赦無く照りつける太陽。

俺は何時まで、
生きなければならないんだ。

ーーー


涙の跡


あの日から、君は、
ずっと独りきりで、
生きていたんだね。

些細な誤解が、
大きなすれ違いになって、
二人の間に、
埋められない溝を作った。

それでも私は、
君を手放す気は無かった。
でも、君は、
私から離れて行った。

久しぶりに見かけた君は、
あの頃より憂いを帯びていて。
寂しげな瞳をして、
作り笑いを浮かべてた。

そして、
誰も居ない窖に逃げ込み、
一頻り、涙を流し、
人前では、涙の跡を見せず、
澄まし顔をしてみせる。

…ねぇ。
独りきりで、
泣くくらいなら、
私の元に帰っておいでよ。

そんな言葉を、
そっと飲み込む。
きっと、今の君の心には、
私の言葉も、想いも、
届かないだろうから。

でも。
ずっと、ずっと、待ってる。
君の涙の跡を、
私の掌で、包み込める夜を。

7/28/2025, 1:34:16 AM