『ある日の夕方7時、巨大な彗星が地球に衝突する』
最初は誰もが嘘だと言ったこの噂は、アメリカの偉い学者による正式な発表で現実のものになった。
彗星は規格外の大きさで、地球は壊れると。
全生物、環境が滅びると。
発表は、よりによってその当日だった。
途端、世界は秩序を無くした。
通貨価値はゼロになり、犯罪が横行し、公共手段はもちろん、経済も機能しなくなる。
そりゃそうだ。今日で世界は終わるんだから。
誰もが諦めている。明日を諦めた。
「どうする?」
教室の真ん中、私たち2人は机を合わせてお菓子パーティをしていた。
もちろん学校などあるはずなく、教室には2人きり。
お菓子は近所のコンビニから貰い放題。最期の贅沢。
「どうすると言ってもねぇ」
友達がポッキーを齧りながら言う。
「今から何をしても遅いよ」
時計は4時を指している。あと、3時間。
「本当にこのまま駄弁ってていいのかなぁ」
「いいんじゃない、別に」
「家族に会うとか」
「うーん…面倒くさい」
面倒くさいと来た。こんな時でも友達は友達だった。動揺のひとつでも見せれば可愛いのに。
「お互い様」
そりゃそうだ。
ついに残り1時間を切った。
教室は、というか学校自体、不自然なほど静まり返っている。
この教室に遮光、防音カーテンがついていてよかった。きっと今頃外は、阿鼻叫喚の時刻絵図だから。最期に人間の汚いところを見る必要はないだろう。
それに、私たちを殺す隕石の顔なんて見たくない。
「あー食べた食べた!」
お菓子の袋が机の上に広がっている。
私たちは一生分のお菓子を食べたのだろう。
「なんか、眠くなってきた」
同じだ。お菓子を食べすぎたかな。
「じゃあ一眠りする?」
「しようか」
どちらからともなく、私たちは手を繋いだ。
「おやすみ」
「おやすみ」
目を閉じる。
静かだ、とても。
もし5分前に目覚めたらどうしよう。
そうなったら奴も起こして、笑ってやろう。
カーテンを開け放して、近くのコンビニに走って、2人でビールでも飲もう。
私たち、まだ16歳だけど。
『世界の終わりに君と眠る』
6/7/2024, 11:05:35 AM