「綺麗だね」
そう言って彼女は僕に笑いかけた。
僕も笑って再び前に目を向ける。
そこには僕の視界に収まりきらないほどの明かりが光り輝いていた。
しかし、僕の耳にはその場の雰囲気に合わない明るい音楽が聞こえている。
「ねぇ、聞いてる?」
いきなり話しかけられ持っていたスマホが落ちた。
「…そんなにつまらなかった?」
また始まった。
スマホを拾いながらそんな事を思う。
顔は可愛い。
学歴も申し分無い。
そんな彼女にもだめな部分がある。
性格だ。
正義感の強い優しい子かと思っていたが、実際に付き合ってみると面倒くさい女だった。
「つまらなくないよ」
「じゃあこれは?」
言葉に詰まる。
「別に、浮気してたわけじゃないし良いでしょ」
「は?」
本音が漏れた。
隣から聞こえるため息。
なんの音もしない静かな夜。
最悪だ。
一気に崩れた。
今まで築き上げてきたイメージが、全て。
こいつのせいだ。
付き合ってやってるんだから少しくらい我慢しろよ。
告白してきたのはそっちだろ。
次々によぎる言葉の数々。
周りの目がある中これ以上そんな言葉を発する訳にもいかなかった。
「最低、そんなやつだったなんて。がっかり。別れましょ?」
そう言って僕の目を真っ直ぐ見つめる彼女の目に光はなかった。
まって、ごめん、違うんだ、信じて、悪かった、それはやめて、お前が悪いんだろ、なんで、だって。
一瞬のうちに出てきた言い訳は彼女の目に打ち消された。
そんな目で見るなよ。
嫌悪感。
酷いこと言った。
罪悪感。
仕方ないだろ。
背徳感。
まるで僕が下みたいだ。
劣等感。
どうせ僕と別れたら言い寄ってくるやつなんていない。
優越感。
気持ち悪い。
全部、何もかも。
「良いよ」
口走った心にも無い言葉。
「じゃあ…」
目を伏せ足早に去っていく後ろ姿を見ながら何となく、よりを戻したいなんて考えていた。
「ちょっと!あの女誰?」
一難去ってまた一難。
「ごめん」
今度は僕が伏せる番だ。
ー街の明かりー
7/8/2024, 12:16:41 PM