旅舟

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詩『世界のスーパースター』
(裏テーマ・初恋の日)


 初めての家族旅行で行ったディズニーランド。

 我が家は祖父母の介護が続いて、ずっと宿泊する家族旅行を1度もすることができなかったんだ。祖父母が亡くなり、悲しみはあったけど忘れたい気持ちもあって家族全員で決めた旅行だった。
 地元の小さな遊園地しか知らない私には衝撃だった。ちなみに地元の遊園地は数年前に閉鎖された。

 初めての東京、初めての東京駅、初めての東京の人、何もかもが驚きだった。
 やっばり東京の人って無愛想だね、歩くの速いね、舞浜駅までの乗り換え誰かに聞いてみる?…そんな会話をずっとしていた。
「あそこに看板?みたいなのがある」
 弟の太郎が指差す方を見たら京葉線って文字があった。

 駅員さんも怖そうに見えたので家族四人で大荷物を持って矢印の方向に向かった。今なら荷物は宅配で先に送ってしまうのにあの頃は持って行ってたから大変だった。
 歩く?エスカレーターにも感動した。
 だけど歩いても降りてもまた歩いても京葉線のホームに辿り着けなくて、本当にあるよね?って会話を始めてもなかなか遠い道のりだった。

 舞浜駅を降りた時の風を覚えてる。フーって吹いたあとに音楽が聴こえた気がした。ディズニーのメロディーだ。
 もう、あの瞬間から私は恋をした。

 初恋は?と聞かれたら、幼馴染みの隣の家のお兄ちゃんでもなく、小学生の時の隣の席の秀才でもなく、中学生の時の野球部のピッチャーでもなく、私はディズニーランドと答える。キャラクターはみんな好きだけど王道が好きな私は、世界のスーパースターのミッキーマウスが大好きだ。
 あの日が私の初恋の日。初恋記念日だ。

 ディズニーランドも41才。
 家族もみんなそれなりに老け込んだ。

 でも、私の初恋は現役だ。
 
 1年に1回だけは絶対に行くことが夫と結婚する時の条件だった。行けなくなったら即離婚とも言ってた。
 コロナで途絶えたけれど、やっと再会できる。
 いくつになっても此処にきたら私は初恋の日の年齢に戻ってしまう。
 だから魔法の国なんだ。

 もうすぐ舞浜駅に到着する。

「ミッキー!!!」
「ただいまー!!!」
「だいすきーーー!!!」
 私は飛び跳ねながら手を振った。

「ママ、はしゃぎすぎで恥ずかしい」
「少しキモい」
 私の娘と息子は手厳しい。(T_T)

5/7/2024, 12:12:44 PM