NoName

Open App

 普通とはなんだろうか。私の普通は、普通では無いらしい。なぜ普通がある。定義も無いものに、説明も出来やしないくせにそれを押し付けてくる。なんて醜いのだろうか。

 ある日、私は恋をした。すごく綺麗でずっと眺めていたいくらいに美しい表情を見た。
私だけを頼ってほしい。縋ってほしい。私だけを見て、私があの子の全ての感情を向けられたい。怯えでも憎しみでもなんだっていいと思った。きっと泣いても綺麗なのだろう。想像するだけでゾクゾクした。

 私は親にも気味が悪いと言われ、いつか、私を隠すようになった。そうするのが一番楽に済んで人とも仲良くなれるから。だけど、抑えれば抑えるほどに欲は強くなって、日が経つごとに、欲望は過激になっていった。
 始めに欲をぶつけたのは蝶だった。ミヤマカラスアゲハという黒くて青緑に輝く翅を持った美しい蝶。欲しいと思い捕まえて、キチンと餌をあげて眺めるだけで満足しようと思っていた。足りなかった。足りなくて、少し触ってみたくなって、うっかり力加減を失敗してしまい、殺してしまった。悲しかった。だけど捨てるのは嫌で、せめて綺麗に残った翅1枚だけでもと標本にした。その時、ようやく私のに、なった気がした。私だけのモノ、そしてその日、私は私のおかしいと言われる部分がどこか、ようやく理解した。思いだ、好きになったものに対する思い。
 私は、好きになったものに、私だけを頼って、私がいないと生きれないほどに依存してほしい。そして、この蝶は私を頼ってはくれなかった。きっと心のどこかで思っていたそれが、触れた瞬間に爆発して、殺してしまった、否、殺した。
 私は何かを好きになるのがあまり無かった。それはきっと、私に依存することがないから。だから私は好きになるものは必ず生き物だった。


 私の初恋は、きっと叶わない。欲を抑えよう。そう思っていても、抑え方が分からなかった。だって教わらなかった。だって避けられたから。
そう言ってもきっともう手遅れだ。だって大人になってしまった。大人は知らないと怒られる。幼い時のように周りは親切な訳もなく、許されない。
けどそんなどうしようもない感情を人に持ったのは初めてだった。きっとこれが初恋。だって今の私に見える景色は蝶と過ごしている日々よりも鮮やかで眩い。いっその事このまま失明すればいいのにと思った。眩いこの景色に目を焼かれる。それはどれほど幸せなことだろうか。

 あの子は歩いて帰ってるらしい。暗い夜道を、1人で。そんな話を聞いて、良くないことを、普通では良くないと言われることを思いついてしまった。
私は名案だとも思った。私の車に攫い、私の家に閉じ込めておきたい。せめて迎えだけでもしたい。
仕方がないことだ。あの子は綺麗なんだ。他の奴に襲われないように、私が守ってあげる。なんていい考えだろう。後ろに誰もいなくても居たと言ってしまおう。本当に居たのは私なのに、帰る道を知るためについて行ったのに、あたかも他のストーカーがいると思わせよう。きっとそれが最も幸せなこと。

 実行した。あの子はまんまと信じている。誘拐みたいな乗せ方をしたのに、何も疑っていない。やっぱり守らないと。そうだ、なにか飲み物を買ってあげよう。そして買ったやつに睡眠薬を入れて眠るまで遠回りをしてドライブをしよう。デートみたいだ。
そんなことを考えたりやったりしていると、あの子はようやく眠った。寝顔も可愛い。このまま眺めていたいが、それは家に連れて帰ってからにしよう。
ああ、幸せだ。この子は私を頼ってくれた。きっとこの行為も、受け入れてくれる。
私の親友は劣等感。周りと違うのを嗤うように出てくる。でも好きな子は優越感。私はこの子がいればそれでいい。
頼れるのは私だけという優越感が、たまらなく心地良い。いつまでも浸っていよう。

7/14/2024, 9:20:49 AM