前妻は、儚げな人だった。
皇族と血縁を有するほどの高貴な家の生まれで、
零れ桜のように晩桜のように触れたら、今にも散ってしまう。
そう感じるほどに華奢な身体、
日の目を見たことのないような月白色の肌、
美しく品の良い、何処となく和の雰囲気を纏う容姿をされていた。
名は、桜子。
貴女ほど、その名に相応しい人は世に居ないだろう。
私には勿体無いくらいの血筋、教養、品位のある人だった。
齢十八の時、結婚式で初めて桜子さんにお会いした。
所謂、政略結婚だった。
私は貴女を愛していたし、貴女も私を愛してくれていたと思う。
結婚して間もなく長男が生まれ、その3年後に次男が生まれ、
その3年後に長女となる子を引き取り、その3年後に次女が生まれた。
順風満帆、仕事も家庭も上手く行っている。
否、そう憤っていたのだ。
私は、貴女の事を本当の意味で知らなかったのかもしれない。
貴女は自分の身体の脆さを知りながら、
それを隠し通せるほどの精神力がある人だったことを。
まだ若き日の私は気が付かなかった、知ろうともしなかった。
医師の口さえ、封じるほどの貴女の強さを。
三人目の子を産んで間もなく、一年足らずで貴女は世を去った。
医師からそれを知らされたのは、貴女の死後だった。
忙しくとも、毎日朝だけは必ず顔を合わせていた。
忙しくとも、毎日朝だけは挨拶を交わしていた。
何故、あの時、貴女を気に掛けなかったのだろう。
もう遅かった、もう貴女は居ないのだ。
もう後悔しても、貴女を失えば無に等しいのだ。
私は、後妻を迎えました。
彼女の名は、綾女。
彼女は貴女の事も、子どもたちの事も、
私自身も愛してくれているので安心して欲しい。
桜が咲き始めた、今日、墓前に家族皆で手を合わせ、
桜子さん、貴女に報告しに参りました。
4/4/2025, 3:08:01 PM