かたいなか

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「踊る、おどる……」
昨日も昨日だったが、今日も今日でまた難しい。
某所在住物書きは某防災アプリのタイムラインを辿りながら呟いた。
その日の午前2時過ぎから20回以上発生している地震が理由。素人ゆえに、それは随分頻発しているように見える。

「油敷いてニンニクのスライス炒めるとき、『ニンニクが踊り始めたら』云々とか、そういえば言うわな」
他は何だろう。風は踊るか?ライブ中の光は踊るだろうな?物書きは加齢で固くなった頭と想像力なりに、なんとかネタを引き出そうとして、どうやら、失敗しているようであった。

――――――

「踊るように」。なかなかに手強いお題ですね。こんなおはなしはどうでしょう。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、一家で仲良く暮らしておりまして、
その内末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、神社のご利益ゆたかで不思議なお餅を売って、絶賛修行中。
1個200円でバリエ豊富。おやつ系からおかず系まで、低糖質対応もバッチリ。
ひとくち食べれば心の中の、溜まって悪さをしている毒や傷なんかを、ご利益でくっつけ絡めて落としてくれる、ありがたいお餅なのです。

今日は台風接近の様子。修行のお餅売りは休業。
自宅の中の、自分のお部屋の窓から、ざーざー音立てて降る雨と、風でプラプラ踊るように枝振る木を、
ニンジンがりがり噛みながら、見ておりました。

「そうだ。そろそろ、秋だ」
がりがりがり。歯ごたえの心地良いニンジンを、子狐は贅沢に1本まるごとかじります。
「秋野菜入れたおもちも、そろそろ、考えたいなぁ」
意外と知られていませんが、ネコ目イヌ科キツネ属の狐は、肉食というより雑食性。
野菜も食べるし、山菜も食べるのです。
5月15日あたりなど、唯一のお得意様宅の、田舎たる雪国から届いた根曲がり竹、キロ単価3千5千オーバーの天然物を、コリコリ、むしゃむしゃ。
ひとり大宴会したことも。

「おもちに合う秋野菜の具って何だろう」
がりがりがり、こりこりこり。
今食べているニンジンも、その唯一のお得意様からの、神社へのおそなえ。
お得意様いわく、故郷の雪国から送られてきた、田舎クオンティティーの野菜の山の、少ないながら、おすそ分けだそうです。

ニンジン、トマト、ナスにキュウリ、等々、等々。
それから昨今値上がりが少し話題になったお米も、袋に入れて約1キロ。
これを「少ない」と断言できるのが、まさしく田舎クオンティティー。
母狐は礼儀正しく、おそなえの対価におふだを渡したり、お守りをオマケしたりしていましたが、
コンコン子狐、おいしそうなニンジンとお米に、尻尾を上下左右ビタンビタン。踊るように、ぴょんぴょん跳ね回っておりました。
要するに食欲に正直な食いしん坊なのです。

「ニンジンとかダイコンとか煮込んで、あんかけにして、おもちで包むのはどうだろう」
がりがりがり、こりこりこり。
ニンジン1本、まるごとペロリ食べ終えてしまった子狐。新しい野菜を貰いに、台所へ向かいます。
次は何を食べようか。その足取りはトッテトッテ軽やかで、まさしく、踊っておったのでした。

9/7/2023, 11:27:49 PM