かたいなか

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たん、とん、たん。
どこかの暗い舞台、真上から一点だけスポットライトの当たるそこ、真下にあるパイプ椅子。
ゴム対木材の断続的な接触を響かせながら、ひとり、物書きが歩いてきて、椅子に座る。
「朝っぱらに、ライブ扉ニュース見たんだ」
指を組み、視線を下げる姿勢は懺悔の様子。
「赤と緑のどんべー、具材、単品で発売らしいな」
言い終えて目を閉じると、首を小さく、左右に振り、
「……今回のお題『ずっと隣で』だったろう」
大きな、長いため息を、ひとつ、吐いた。
「腐ってんのかな俺……」

――――――

かつて物書き乙女であった、現概念アクセサリー職人たる社会人は、ローリングストックしている防災用非常食補充のため、スーパーマーケットに立ち寄り、
カップラーメンの売り場で、大きな衝撃に打たれた。
「新、商品……」
スーパーのオリジナルブランド、白のうどんに薄茶のそば、2種類だけだった麺類に、薄黄色のラーメンが参入したのである。
「わあぁ……」
その陳列が酷かった。元薔薇物語作家であった乙女を、その心を、一撃必倒のもとに打ち据えてしまった。なにもこんな並べ順にする必要は無かった。
ド真ん中である。横入りである。
ずっと隣同士片時も離れなかった白と薄茶、その間に薄黄色が、我が物顔で、堂々エントリーである。
社会人になって数年。二次創作からも離れて数年。
物書き乙女の薔薇が久方ぶりにごうと燃えた。

(駄目駄目駄目ダメだめ。今月余裕無い。ない)
白と薄茶と薄黄色の前に立ち尽くす彼女は、ふるふる小さく首を振った。脳内では金銭管理何するものぞと、創作欲求の火が盛っている。
白茶の主従に黄の理不尽か、白茶の親友に黄の誘惑か。そもそも敵か味方か三角関係もアリか。
じっと3種を見詰めて離さぬ乙女に、商品整理中の店員が、二重マスクに業務スマイルでとどめを刺した。

「おいしいですよ」
店員が言った。
「うどんのスープをアレンジしてるんです」

白(うどん)か。白(ひだり)の仲間なのか。
ずっと隣同士の白茶で、想うがゆえの白の苦悩を茶に言えず、黄が聞いて茶にそっと、白茶を壊さぬよう伝えるのか。おお、プラトニックな友情ロマンよ。
乙女の心はとうとう完全に打ち負かされ、唇を噛み締め、最終的に薄黄色を掴んだ。

3/14/2023, 12:55:06 AM