Frieden

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「失恋」

あんなに好きだったのにな。
でも、僕は誰が好きだったんだろう。
僕は何が好きだったんだろう。

今じゃもう、何にも分からない。何にも。

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小さい頃、君が人見知りだった僕を遊びに誘ってくれたのが全ての始まりだった。明るくて朗らかな、どこへ行っても人気者の君が、僕なんかと友達になってくれるとは思ってもみなかった。

小学校に入っても、君は僕と仲良くしてくれた。

本ばかり読んで、楽しく話すことも一緒に外で遊ぶこともないからってクラスのみんなからいじめられた時でさえ、君は味方でいてくれた。

こんなことをしたら君だって酷い目に遭うかもしれないのに。
……こんなことを思ってはいけないんだろうけど、いじめられる度に君に守ってもらえると、君にとって僕が大切な人なんだと自覚出来るような気がして、苦痛ながらも嬉しさを感じていた。
実際はただの現実逃避だったのかもしれないが。

中学に上がっても、君は変わらず太陽みたいだった。
キラキラグループに属しながらも、隙を見ては僕と話をしてくれた。

そんな暇なんてなさそうなのに、映画を見に行ったり、夏祭りに行ったりと一緒に出かけてくれて、その時はまるで君を独り占めしてるみたいだった。あれが優越感ってやつだったのかな。

でも、君といると嬉しさと同時に不安も感じていたんだ。
明るい君と暗い僕は、明らかに釣り合わない。
僕が君の足枷になっていないか、不安で不安で仕方なかった。

そんなある日、ふと気付いた。自分の気持ちというか、君に対して抱く感情に。

幼い頃の、友達に対する「好き」とは別のなにか。
それの正体がわかるのにそう時間は要さなかった。

ある時いとこが持ってきた少女マンガに書かれていた「恋心」。
初めて読んだ時は理解できなかったが、今ならわかる。
君に抱いているのはまさしく「恋心」だった。

僕は、生まれて初めての恋をしたんだ。
君の笑顔も、綺麗な黒髪も、大きな手も、優しさも明るさも全部好きだった。

声を聞くたびに、一緒に家まで歩くたびに、嬉しさと苦しさが同時に襲ってくる。
せめて君には気づかれないようにしなければ。

この恋は、きっと実らないから。

だって君も僕も、おんなじ性別だから。

いくら今が多様性の時代だからって、僕のせいで君までそういう目で見られて欲しくない。
君に気味悪がられるのはもっと嫌だ。

この気持ちが届かないって分かってるんだから、せめて少しでも長く一緒にいたい。

恋人になりたいな。
そんな気持ちを抱くのは間違いだ。
一緒にいたい。この気持ちを伝えたい。
君と僕じゃ見た目も中身も全然釣り合わない。
君のためになることをしたい。
今の僕が出来ることは想い人から離れることだろ。

悩んでいるうちに、ついに高校生になってしまった。

そんなある日、君は僕にこんなことを聞いてきた。
「好きな人っていんの?」

僕はうまく答えられなかった。
「君が好きだ」って言いたいのを我慢するだけで精一杯だった。
でももう耐えきれない。この気持ちを伝えなくちゃ。

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そんな話をしてから何日かたった頃の放課後、僕は君に呼び出された。話があるらしい。僕も大事な話があるとなんとか伝えた。

君の後をついていくと、静かな教室に着いた。
教室に入って、僕は後悔した。

君しかいないと思っていた教室に派手な女子がいたのを見て、僕は本当にがっかりした。

その子はかつて僕をいじめていた女子だったんだ。
その時の恐怖を思い出して身体が竦む。

「いや、お前もさ、もう高校生なんだから彼女くらい作っといた方がいいと思って。いいヤツだからお前に紹介しよっかなぁって。」
「ふーん。陰キャくんもおんなじ高校だったんだーw」

「そ、そっか、そうなんだ……。ありが……とう。で、でも気持ちだけ受け取るよ。」

「僕からの提案なんだけどさ……君と彼女の方がお似合いなんじゃないかな……?」

「お、マジ?!いいじゃーん!」
「それじゃ俺たち、付き合っちゃう?」
「ってことでよろしくーw」

「まさかお前が恋のキューピッドになるとは思ってなかったよ!」
「恋愛成就の陰キャ地蔵作んなきゃじゃんw」

「んで、お前の大事な話って何?」
「いや、忘れた……。どうかお幸せに。それじゃあ。」

頭が真っ白のまま、誰もいない自習室に逃げ込んでしまった。
初めての恋、初めての失恋で混乱して、涙すら出ない。

呆然としていると、彼らの話し声が聞こえた。
耳を疑うような内容だったので、夢だと思いたかった。
でも今日できた切り傷と心が痛むのが僕を現実に引き戻した。

「なんでアンタはウチをあんな陰キャに紹介しようとしたん?」

「え、あいつだったら絶対断るだろうと思ったから。なんていうかその、えー……っと正攻法で告ってもムズイかなぁって。」
「なにそれwウチがアンタのこと好きなの知ってるクセにw」

「あとさぁ、俺があいつにお前紹介したらさ、あいつは彼女できて俺もいいヤツになれるじゃんw」
「えーなにそれwサイコパス?www」

あんなに好きだったのにな。
でも、僕は誰が好きだったんだろう。
僕は何が好きだったんだろう。

今じゃもう、何にも分からない。何にも。

明るくて優しい君が好きだったのか。
恋する自分が好きだったのか。
君と過ごした時間が好きだったのか。

でももうそれらは全て粉々に砕け散った。

偽物の優しさ。偽物の笑顔。偽物の、偽物の……。
偽物を好きになってしまった自分。
偽物の時間。利用されるための時間。

失恋と幻滅。

その日から、僕は君と関わるのをやめた。
将来はきっと遠い街で暮らそう。そう決めた。
そして、もう恋なんかしないことも決めた。

僕の欠けて冷えた心には、そんなことしかできない。
もう元通りにはなれないから。
もう君を好きにはなれないから。

6/4/2024, 1:10:34 PM