創作 「雫」
オランダの涙と呼ばれる滴形のガラスがある。
丸い部分をハンマーで叩いても割れない程、丈夫なガラスなのだそう。 ただし、細く伸びる尾を折るとガラスは呆気なく砕けてしまうのだとか。
カチリと蛍光灯がつき俺はのろのろと本から顔を上げた。お菓子と飲み物を抱えた彼女が苦笑いしつつ部室に入って来る。
「ほら、カフェオレとおやつ」
「……ありがとう」
「残念、だったね。小説コンテストの結果」
「うん」
「でも、全国大会に初出品で佳作は凄いことだよ!」
そういう彼女は、文章を書かせればあっさり最優秀賞やら特別賞やらをとってしまう。文章の出来に波がある俺とは、月とスッポンだ。そんな彼女からのありがたい慰めの言葉を、深いため息で吹き飛ばす。
「泣いてるの?」
彼女が心配そうに、俺を覗き込む。俺は顔を見られたくなくて本を顔の前にもってきた。来年こそ、彼女を越える。そう、宣言したい。なのに、涙が止まらず、声にならない。
そのガラスは、俺に似ている。打たれ強いのに、もろい。心の尾を折られた俺は、溢れる悔しさの雫をしばらく止められなかった。
(終)
4/22/2024, 5:59:09 AM