ゆじび

Open App

「星明かり」


輝いていますか?
誰よりも。
貴方が見つけてくれるまで。
貴方が飽きるまで。
輝き続けていたいのです。

あの日からどれほどの月日がたったかな。
あの日、私たちの街を怪獣が襲いました。
朝、何かの音が聞こえて目を覚ましました。
遠くから怪獣の足音のような大きな音が近づいて来ていました。
怪獣が足を踏み出す度に、大きな揺れが起きました。
怪獣が通り過ぎたかのように辺りがしんとしました。
ミシミシ家がきしむ音がしました。
私は急いで家を後にしました。
正直に言うと家の外に出なければよかった、と思いました。
その日、私達の街は、家は建物は私達の当たり前だと思っていた日常と言うものは、跡形もなく消え去っていました。ここが何処か分からなくなりました。
でもここは私の街だ。そう思いました。
近所の老夫婦が飼っていたベッキーとランが、飼い主を探していました。
何だか焦げ臭くて辺りを見渡すと、近くの家が燃えていました。
逃げなくては。本能的に感じました。
声がしました。助けてと言う声が。
ベッキー、ランと呼んでいました。
どうやら燃えている家は老夫婦の家のようでした。
ベッキーとランは老夫婦の所へ駆け寄っていました。
このままではベッキー達も助からない。
私はそう思いました。本当に危ない状況でこそ冷静になると私は始めて知りました。
私は意を決して、ベッキー達を抱えて老夫婦のもとから離れました。
走って離れましたが老夫婦が行かないで、助けて、だとか言っている声が頭に響きました。

避難所にベッキー達と一緒に駆け込みました。
そこには人がいっぱいで、いつかの大地震を思い出させました。教科書でしかみたことのない光景が目の前にひろがりました。

一つ気になっている事がありました。
恋人の事です。
彼は、無事に避難できたのでしょうか。
それともあの老夫婦のように..
考えるだけで頭がいたくなりました。
電話が一つありました。
繋がらないと分かっていても、家族、恋人に電話を掛けようとする人が集まって大きな列ができていました。

怪獣に襲われてから、長い月日が流れました。
まだ家には帰られていません。当たり前ですが。
手紙を持って恋人の両親が私のもとに訪れました。
ご両親は目が大きく腫れて、赤く痛々しい。
でも私の前で無理に笑っていました。
私はその時何だか、わかったのです。
彼は死んだんだって。
崩れ落ちた私をご両親は肩を、背中を撫でてくれました。貴方ではないのに手のひらの暖かみが貴方の大きな手の暖かみを思い出させるのです。

それから今日まで何年もたちました。
今日の私は笑っています。
いや、貴方が死んでから一度も泣いていません。
死んだら星になるという子供のための話を私は真に受けているのです。
あなたは私の笑顔が好きだと言ってくれたので。
貴方が私に飽きるまで貴方が私を見なくなるまでは私は泣きません。
貴方の記憶に残られるなら、笑った私が良いから。
恋だってたくさんします。
これからです。良い出会いがないだけですから。
だから心配しないで。
私は前を向いて歩きます。いや走ります。
なのでもう私から離れてください。
もう大丈夫ですから。



もう、消えてくれましたか?
ごめんなさい。やっぱり大丈夫じゃないです。
苦しいです。
今日ぐらい泣かせてください。



本当に本当に...さようなら。





4/20/2025, 1:17:23 PM