悪役令嬢

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『風に乗って』

屋敷で働くベッキーが庭の掃除をしていると、
何やら怪しげな生き物を見つけました。

「お嬢様!お嬢様!」
「そんなに慌ててどうしましたの、ベッキー?」
「に、庭に猫が……」
ただの猫ではありません。
二人が庭へ行くと、そこには紫色の毛並みを
した猫が風に乗ってぷかぷかと浮いていました。

「まあ、チェシャ猫ではありませんか」
「チェシャ猫?」
「知人の店で飼われている猫ですわ。
どうしてこんなところに」

チェシャ猫は、うにゃうにゃと鳴きながら木にぶつかり、ボールのように跳ね返ったかと思いきや、今度は妖精のように姿を消して、悪役令嬢とベッキーの目の前にぽん!と現れたのです。

「にゃ~お腹が空いて力が出ないにゃ~」
どうやら空腹のご様子です。

「ただいま戻りました」
ちょうどその時、買い出しを終えた
セバスチャンが市場から帰って来ました。
手には大きな箱を抱えています。

「おかえりなさい、セバスチャン。
その白い箱は何ですの?」
セバスチャンが蓋を開けると、
中には銀色に煌めくマグロが入っていました。

「うわあ!よかマグロったい!」
ベッキーが栗色の目をきらきらと輝かせています。
「ああ、漁師が勧めてくれたんです。
新鮮で活きのいい魚が手に入ったと」
「生で食べても美味しいみたいですよ!お嬢様!」
「あら、いいですわね」
「うまそうだにゃ~」

セバスチャンが宙に浮かぶ紫色の毛玉に
訝しげな目線を向けます。
「主、この魔物は……」
「魔術師のところに住むチェシャ猫ですわ」
「マグロが食べたいにゃ。
食べるまで帰らにゃいにゃ」

その日の夕食はマグロのおさしみに、マグロとアボカドのサラダ、ネギトロとマグロのステーキでした。

「うみゃいうみゃい」

ご馳走をぺろりと平らげたチェシャ猫は、
満足気に口元を舐めると、悪役令嬢の膝の上
に寝転がって毛繕いを始めました。

それから数日間、チェシャ猫は悪役令嬢の屋敷に住み着き、暫くしてから魔術師が迎えに来て一緒に帰りましたとさ。



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※セバスチャンやチェシャ猫は魔物なので
アボカドやネギを食べても大丈夫です!

4/29/2024, 8:45:05 PM