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 部屋の主はソファと一体になっていた。2人掛けのソファに横になって抱き枕を大事そうに抱えて、スヤスヤと寝息をたてている。
「待ちくたびれたんだろうな」
 それだけ待たせてしまったという自覚があった。時計を見やれば、戻ると伝えた時刻から長針がふた回りも進んでいる。マグカップの中身も中途半端に残って冷めていた。
 ちょっとだけ横になって、すっかり夢の国から抜け出せなくなってしまったお姫様は見られてることも知らないで幸せそうに寝ているから、膝立ちになって覗き込んだ。
 正直な君の瞳は目蓋に覆われて、おしゃべりな口だって静かだった。少しだけ開いているから桃色の唇は乾燥しかけて、人差し指を押し当てて閉じてやる。
 ふにふにと柔らかくて厚みがあって食べたら美味しいのだろうなぁ、と腹を空かせた狼に狙われているだなんて微塵も思ってなさそうな寝顔。
 起きる気配もないものだから調子に乗って指先でつついていると食べられそうになって慌てて止めた。
「する場所で意味が違うんだってね」
 前髪を払いのけた額と目蓋にただいまのキスをするとまつげに触れて君がくすぐったそうにする。
 顔周辺だとあからさまに君を起こしているようで気が引けて、ぬいぐるみを抱く手の甲にまたひとつ。その手を取って手首に口付けて、手の平に再びキスを落とした。
「今の俺にぴったりだな」

 このままにしてあげたいけど、ちょっとだけ起きて構って欲しいな、なんて。

2/5/2024, 3:41:44 AM