ガルシア

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 彼女の胸にナイフを突き立てた。念入りに骨の位置を確かめたおかげでその切っ先はするりと柔らかい肉に沈み、程なくして艶やかな唇から漏れる呼吸が絶えるのを感じた。今もあの温かな血液の感触は鮮明に覚えている。一連の犯行を何も知らない世間の連中は痴情のもつれなどと騒ぎ立てた。何か気に食わないことがあり、その弾みで恋人を刺したのだろうと。勘違いも甚だしい。
 彼女は言った。何らかの理由で死ぬ前に、殺されてしまう前に、貴方に殺されたいと。
 俺は嬉しかった。彼女の最後の贈り物を得る栄誉は俺に与えられたというわけだ。断る理由は無かった。
 だから、刺した。彼女は俺が贈った中でも一等お気に入りの服を身につけて、俺は彼女が一等似合っていると言った服で。最後の口づけがやけに甘かったのは、ふたりで食べたケーキのせいだった。この世に生まれてから最高に幸福な時間だ。
 きっと俺たちは死後救われる。これは何よりも確かな愛だったと、神はおわかりだろう。だって、最後の瞬間の彼女は何を口にしたと思う。息を絶え絶えに、しかしにっこりと微笑んで。
 浮気しちゃ、嫌よ。


『神様だけが知っている』

7/4/2023, 1:52:02 PM